虫落としの孝司。
非常に不本意だが、子どもの頃からの僕の渾名というか称号だ。
何故かは知らないし、今さら知りたくもないが、僕が指さした虫は大小関わりなく必ず地面や床に落ちる。そして、そのまましばらく腹を上にしてじたばたともがいているが、やがて正気を取り戻したように飛び去っていくのだ。
田舎暮らしの男児にとって、どんな虫でも捕まえられるというのが、どれだけのステータスになるかは、田舎で子ども時代を過ごした男児にしか判らないだろうが、それはもう凄いものだった。特に夏場はカブトムシやクワガタ、オニヤンマやアゲハチョウ、それにミンミンゼミやヒグラシなど取り放題で、あっちのグループこっちの集団と引っ張りだこ。殆どヒーロー扱いだった。
そんな僕でも一度だけ、本気でゾッとした出来事がある。
いつものように虫を獲りに虫籠だけを抱えて一人で森に向かった僕は、珍しい獲物を求めてずんずん遠くの方まで分け入り、やがて信じられない程に太くて高い樹を見付けた。見上げるとその樹にはカブトムシやクワガタだけでなく、セミやチョウなど沢山の虫が羽を休めているのが見えた。
今考えると、どうしてそんな風に大量の虫が一本の樹に集まっていたのかを疑問に持つべきだったのだが、子どもだった僕は夢中になって、いるだけの虫を指さして回った。しまいには一匹一匹指さすのも面倒になって指先を斜めに滑らせたり、十字や籠目を切ってみたりした。
ふと気が付くと、僕の足元は地面が見えない程に折り重なって足掻く虫たちの姿で埋まっていた。
思わず僕が手を止めると、虫たちは一斉に正気に還ったように舞い上がり…… 僕の視界は様々な虫によって閉ざされた。悲鳴を上げて駆け出した僕の頬に、腕に、膝にぶち当たる、そして何より足元で砕ける虫たちの感触は未だに夢に見てうなされる事がある。
そうはいっても、この能力を僕は未だに重宝している。家にゴキブリが出た際、悲鳴を上げる妻の指令で迅速に、確実に片付けることが出来るからだ。
非常に不本意だが、子どもの頃からの僕の渾名というか称号だ。
何故かは知らないし、今さら知りたくもないが、僕が指さした虫は大小関わりなく必ず地面や床に落ちる。そして、そのまましばらく腹を上にしてじたばたともがいているが、やがて正気を取り戻したように飛び去っていくのだ。
田舎暮らしの男児にとって、どんな虫でも捕まえられるというのが、どれだけのステータスになるかは、田舎で子ども時代を過ごした男児にしか判らないだろうが、それはもう凄いものだった。特に夏場はカブトムシやクワガタ、オニヤンマやアゲハチョウ、それにミンミンゼミやヒグラシなど取り放題で、あっちのグループこっちの集団と引っ張りだこ。殆どヒーロー扱いだった。
そんな僕でも一度だけ、本気でゾッとした出来事がある。
いつものように虫を獲りに虫籠だけを抱えて一人で森に向かった僕は、珍しい獲物を求めてずんずん遠くの方まで分け入り、やがて信じられない程に太くて高い樹を見付けた。見上げるとその樹にはカブトムシやクワガタだけでなく、セミやチョウなど沢山の虫が羽を休めているのが見えた。
今考えると、どうしてそんな風に大量の虫が一本の樹に集まっていたのかを疑問に持つべきだったのだが、子どもだった僕は夢中になって、いるだけの虫を指さして回った。しまいには一匹一匹指さすのも面倒になって指先を斜めに滑らせたり、十字や籠目を切ってみたりした。
ふと気が付くと、僕の足元は地面が見えない程に折り重なって足掻く虫たちの姿で埋まっていた。
思わず僕が手を止めると、虫たちは一斉に正気に還ったように舞い上がり…… 僕の視界は様々な虫によって閉ざされた。悲鳴を上げて駆け出した僕の頬に、腕に、膝にぶち当たる、そして何より足元で砕ける虫たちの感触は未だに夢に見てうなされる事がある。
そうはいっても、この能力を僕は未だに重宝している。家にゴキブリが出た際、悲鳴を上げる妻の指令で迅速に、確実に片付けることが出来るからだ。