
(これは「鮑(あわび)のカレー」です。もともと有名なのは「鮑のステーキ」ですが)
実は私は一度も志摩観光ホテル「ラ・メール クラシック」に行ったことがない。
世界的な高橋シェフの本を買って、その料理の美しさに、料理の本というより「美しい絵本」として大切にしていた。
安倍新総裁が3500円の「カツカレー」を東京の高級ホテルで食べたとマスコミが騒ぎひどいバッシングをされたが、それがもとで、全国のレストランで「カツカレー」を注文する人が増えたそうな。
だったら、最高のカレーを、と思うと、どうしても「伊勢志摩観光ホテル」の高橋シェフの料理を思う。
もともと高橋シェフはフランス料理を超えたフランス料理を日本の美味しい食材で作り、世界の有名シェフを驚かせ、現役なのに「伝説的シェフ」となった。
さっそく「イセエビのカレー」を食べてみよう、などと空想の中でエントリーしてみた。
ホテルに宿泊しなくても、大丈夫。 でも少なくても2日前には要予約。
ジャーナリストの森枝卓士氏が書いているので転載する。
森枝氏はカレーについては、有名なグルメだ。
「志摩観光ホテル」の伊勢海老カレー。

大ぶりの伊勢海老が、豪快に美しく一人前に一尾入っている。見えているだけでも。
もとより、それなりのお値段である。が、こんな時期だからこそ、たまには経済活性化に励まねばと自分を納得させ、志摩に向かう。
そもそも。歴史を見ると、日本人にとってのカレーはご馳走ではなかったと思われる。明治時代に西洋料理として紹介されたが、その時点から庶民にも手の届く楽しみだった。だからこそ、学校の寮、あるいは軍隊のメニューとなり、一般家庭の味となる。
特にインスタント化が進んだ戦後は、日常そのものとなる。学生食堂で財布が寂しいと食べるもの。母親が夕食のメニューを思いつかないときの苦し紛れ。アウトドアの定番。
改めて考えてみると、そこそこの食材を、それなりに食べられるものにしてしまうところが、カレーという料理の凄さだと気づかされる。だからこそ、国民食にもなったのだろう。 しかし、その逆、極上の食材を活かした、最高の料理としてのカレーはあり得ないのか。どこのホテルのレストランでも、メニューの中では安い方だが、究極のご馳走としてのカレーも可能ではないか。食べてみたい。 ある時、そんなことを考えた。海の幸といえばここしかないというホテルに、雑誌の企画として、相談した。
そこで「こんなものでは?」と作ってくれたのが、伊勢海老のカレーだった。圧倒された。私だけが唸っているのはもったいない、メニューにと進言した。以来、隠れ名物とでもいうべきものとなった。それを久しぶりに思い出し、また、食べたくなったのだ。
志摩観光ホテルは『華麗なる一族』の舞台として有名で……などと今さら説明の必要もないだろう。戦後日本のリゾートホテルの草分けである。今では「クラシック」と呼ぶ元々のホテルに加え、「ベイスイート」と呼ぶ新棟も建っている。まさに今という時代のセンスのリゾートホテル。
新しいリゾートにも心惹かれつつ、やはり、昔のままの心地よさのクラシックへ。気後れしながら入っていった大人の世界が、今や懐かしくも、ほっとする空間のように感じられる。私がそれなりに年をとったからか、ここが戦後の日本が重ねてきた年月を象徴する場所だからか。
改めて、伊勢海老のカレー。海老の圧倒的な存在感に、貧乏性は「もったいない、もっと素直に海老の旨さを味わった方が良かったか」と思ってしまいながら、口に運ぶ。
しかし、これが旨い。唸るほどに旨い。伊勢海老という食材の素性の良さを際立たせているだけでなく、カレーとしても素晴らしく美味しい。姿をさらしている海老だけでなく、ソースにもたっぷり海老が隠れていて、さまざまな野菜、スパイスとハーモニーを奏でている心地よさ。特に伊勢海老のコライユ、つまりミソがミソで、味わいを重層的にしている。 「カレーにしてくれてありがとう」と海老が言っているようなカレー。幸せのうちにカレーの概念を変えてくれた一品だと改めて実感する。
さらに驚くべきものが、あった。鮑〔あわび〕のカレー。私にとっては新しい味だったが、これが負けず劣らず凄い。伊勢海老のカレー同様、さまざまな要素がハーモニーを奏でている。弦楽四重奏ではなくて、オーケストラのハーモニー。こちらは特に鮑の肝が味わいに深みを与えている。
何より大ぶりに切ってある鮑の凄さ。鮑が口の中にまとわりつき、遊んでいるような快感。豊かな弾力。エロティックなまでの旨み。コクと食感の快感のカレー。
まったく、カレーのためだけにでも、ここまでやって来る価値はあると思う。カレーはそのようなご馳走になり得るのだ。
まあ、そうはいっても、ここに来てしまったら、鮑のステーキをはじめとするあれこれも食べてしまうが。食べずに帰るのはあまりにももったいないもの。
クラシックと呼ばれるホテルの料理は、かつて革命だった。日本のフレンチ。土地の食材で土地の味。今や常識だが、ここで食べていると、前衛がクラシックとなる時間に想いを馳せてしまう。
両方のホテルの指揮を執る現在のグランシェフ、宮崎英男さんは「しんか」がキーワードだという。新しいホテルでは進化。クラシックの方では深化。まさに、御意。
今、私に、あなたに必要なのはどちらだろう。美味と雄大な自然を堪能しつつ考える。
♪ 以上、森枝卓士氏のエッセイ
カレーはご馳走! 伊勢志摩、海の味 2011年06月30日 森枝卓士 (フォトジャーナリスト)
■志摩観光ホテル クラシック レストラン ラ・メール クラシック
東海道新幹線名古屋駅または京都駅から近鉄特急で賢島駅下車、徒歩約5分
三重県志摩市阿児町神明731 ☎0599(43)1211
営業時間/11時30分〜14時(ランチ)、18時〜20時30分(ディナー・予約制)
☆ 高橋シェフは「鮑のステーキ」「イセエビのクリームスープ」で一世を風靡した。
☆ 私は本で見るだけだけれど、「美味しすぎてまた行きたい」と言う人と「味が濃厚で一度でいい」という二派に分かれるようだ。「イセエビのカレー」は14000円。
「鮑のステーキ」をおカネを積み立てて家族で行ってきた人が言うには「あんなの大阪の『イカ焼き』みたいなもの」って笑わせてくれた。私もそれを思い出して友人のパンダ夫人と爆笑。味覚は人それぞれ、ですね~。(笑)
10月1日のアクセス数 閲覧数:3,966PV