その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

柿崎 明二 『検証 安倍イズム――胎動する新国家主義』  (岩波新書、2015)

2016-02-07 07:30:00 | 


 安倍首相の考え方をその公式発言から読み解いた本。安倍さんが、経済の成長戦略を国家主導で強く推し進めていることは周知であるが、これらの諸施策(金融緩和、賃金、女性政策、人口対策)や教育、安保、歴史認識の諸分野について、その背景にある「国家観」について検証している。

 特に、何か新しい事実や情報が提示されているわけではないが、改めてこうして整理してもらうと、安倍さんの根本的な発想が良く理解できる。安倍さんにとっては、敗戦から1952年にサンフランシスコ条約で主権を回復するまでの7年半は、日本が日本でない断絶の時代(戦後レジーム)であったこと。そして、現在のほとんどの政策は、「強い国家」、「善意の国家」、「関わっていく国家」の文脈で理解できること。さらに、敵対的国家観や計画的自立経済といった考えは祖父の岸元首相の考えを受け継いだものであることなどである。

 岩波新書ということもあり、安倍さんへの批判的検証というスタンスはあるものの、公平かつ客観的に書かれていると思う。例えば、安倍さんの集団的自衛権容認はアメリカの要求によるものと私は思っていたが、時系列をたどるとそうではなく、安倍さんが自民党幹事長時代から集団的自衛権の行使については積極的肯定意見を述べているようだ。岸首相との相違点であるという、天皇制に対する考えや、より情緒的である国家観といった解説も興味深い。

 読みやすいし、分かりやすく書かれているので、安倍さんの政策の根本理解したい方にお勧めしたい。


目次

序章 国家性善説から国家先導主義へ
第1章 始まっている国家先導(賃金引き上げ 「瑞穂の国の資本主義」へ
  「女性の活躍」 経済的視点からの成長戦略
  人口政策 一億人超を目指す?l異次元緩和「関わっていく政治」の序章
  旅券返納事件と拉致被害者滞在延長 主体化する国家)
第2章 何を「取り戻す」のか(二つのメッセージ 「美しい日本」観の発露
  集団的自衛権 首相による解釈改憲こそ「王道」
  歴史認識 東京裁判は「勝者の断罪」
  教育改革と憲法改正 失われた「損得を超える価値」)
第3章 「国家」とは何か―祖父・岸信介と政治改革という二つの源流(国家と個人は「父と子」
  岸イズム
  「強い国家」を支えるもの 政治改革と内外の変化
  安倍は保守主義者か)
終章 国家先導主義の行方(積極的平和主義と対米従属
  「国民のため」から「国家のため」へ 反転の危険性)
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