新国立劇場演劇部門の23-24シーズン幕開け公演。シェイクスピアの問題劇と言われる、「尺には尺を」と「終わりよければすべてよし」の交互上演という意欲的な取り組みだ。
まずは、「尺には尺を」を初日に観る。
事前に松岡和子訳に駆け足で目を通したので、大まかな筋は把握していたものの、観劇を通じてますますこの作品の奥深さが感じられた。強制的に結婚させられる幸せとは言えそうにない2組のカップル、最高権力者による突然の求婚による結末。劇中の各登場人物の科白にみる人間性や思想に加えて、謎めいた結末が意味するものは何なのか。戯曲を読んで感じた自分の疑問符が解けたところもあった一方で、ますます疑問が増えていく。そんな思いだった。
作品の難しさ、奥深さはこれからのお勉強課題にしておくとして、芝居としては実力派スタッフとキャストによる完成度高い上演だった。役者の中では、ソンミが演じる主人公イザベラの健気で一途な女性像が印象的だった。あらゆる男性からモテモテのイザベラであるが、修道女見習いとしての自説を能弁に語る姿は凛としていて魅かれる。ラストで、伯爵に突然の求婚をされ、戸惑いながら、伯爵と一緒に舞台を立ち去る姿はなんともユーモラス。観衆に笑いとともに、「イザベラ、これで良いんだっけ?」との疑問も生じさせる。戯曲のイメージともぴったりで、はまり役だと感じた。
原作で私が「男ならありうるよね」と感じたアンジェロの岡本健一も好演。権力をかさにイザベラの操を求める姿は想像以上に「最低の」男であったが、その悩める姿は味があった。
舞台に活気を与えていたのは、これまた口から生まれたようなチャラ男ルーチオを演じた宮津侑生。軽薄でお調子者なこの脇役を宮津侑生が生き生きと演じていた。
演出は大道具は刑務所や城門として使われる壁一つでシンプルだが、場を理解し、想像するのには十二分。照明も効果的だった。
「終わりよければすべて良し」への期待感が高まった初日だった。
2023/2024シーズン
シェイクスピア、ダークコメディ交互上演
尺には尺を
Measure for Measure
終わりよければすべてよし
All's Well That Ends Well
公演期間:2023年10月18日[水]~11月19日[日]
予定上演時間:
『尺には尺を』約2時間55分(第1幕95分 休憩20分 第2幕60分)
『終わりよければすべてよし』約3時間10分(第1幕85分 休憩20分 第2幕85分)
Staff&Castスタッフ・キャスト
スタッフ
【作】ウィリアム・シェイクスピア
【翻訳】小田島雄志
【演出】鵜山 仁
【美術】乘峯雅寛
【照明】服部 基
【音響】上田好生
【衣裳】前田文子
【ヘアメイク】馮 啓孝
【演出助手】中嶋彩乃
【舞台監督】北条 孝
キャスト (役名:『尺には尺を』(左)/『終わりよければすべてよし』(右))
岡本健一:アンジェロ/フランス王
浦井健治:クローディオ/バートラム
中嶋朋子:マリアナ/ヘレナ
ソニン:イザベラ/ダイアナ
立川三貴:典獄/ラフュー
吉村 直:バーナーダイン/紳士1、ラヴァッチ
木下浩之:ヴィンセンシオ/フィレンツェ公爵
那須佐代子:オーヴァーダン/ルシヨン伯爵夫人
勝部演之:判事/リナルドー
小長谷勝彦:ポンピー/兵士2
下総源太朗:エスカラス/デュメーン兄
藤木久美子:フランシスカ/キャピレット
川辺邦弘:エルボー・紳士2/兵士1
亀田佳明:フロス・アブホーソン/ぺーローレス
永田江里:ジュリエット/マリアナ
内藤裕志:ピーター/紳士
須藤瑞己:召使い/従者
福士永大:使者/小姓
宮津侑生:ルーシオ/デュメーン弟