歴史を否定する人に対して反論をすれば、明らかに間違った見識だったとしても、相手のまな板に乗ることになり、矛盾や誤りをついていくほど、相手の主張を格上げさせて反論する側のレベルに引き上げてしまうというのである。
『ホロコーストは無かった』という歴史の否定者に訴えられた大学教授は、裁判の席上で如何に対応すべきか弁護士と相談した結果、『歴史を否定する人と同じ土俵に乗ってはいけない』という結論に至った。(朝日新聞Globe概要)
実際に起こった提訴事件を映画化した『肯定と否定』という中で、法廷で展開される『ホロコーストは無かった』と訴える英国人、対する訴えられたユダヤ系米国人の大学教授は、弁護士と相談して決めたことが直接本人の答弁を避けるということであった。理由は『歴史を否定する人と同じ土俵に乗ってはいけない』と云う格言に導かれたからである。この映画は観ていないので何とも言えないが、似たような事例が日本にもあったと思い返した。『南京事件』の真偽である。
日中戦争がなぜ起こったか資料を見てみると、発端は日露戦争に始まっていることが分った。ロシアが管理権を持っていた中国北東部、俗に満州という地域を、ロシアから引き継いで日本の管理に置いたことに始まる。然し国際関係では日本の管理権に否定的な態度をとる国もあった。そこで日本の統治権を画策した石原莞爾中佐によって、柳条湖事件という鉄道爆破事件が引き起こされて、日中戦争への流れを作ったとある。その後は国民党中国政府がアメリカに働きかけて、アメリカが日本への経済封鎖に乗りだしたので、一気に中国本土への拡大作戦になっていった。南京事件はその過程にあると言える。一部の人は『南京虐殺はなかった』と云い、否定と肯定の狭間に歴史が歪んでいる。
この流れを観ると、疑いようのない大陸侵攻の歴史が見えてくるのだが、当時、日本の政治上層部はこの流れに反対であったそうだ。軍部が強硬な行動を起こして犬飼首相を暗殺し、軍政が敷かれて亡国への道を突き進んでいくことになる。
今の国際情勢は大戦前の状況に似ていると言われるけれど、先の見えない不確定な時代にあって、政治的経済的不安を抱いた各国の首脳が、自国の優位性を構築しようと力で押し切る態勢が目立ちます。米中関係が悪化している今、中国の覇権的拡張主義が、かつて日本の犯した暴走をなぞっているようにも見えるのは偏見だろうか。両シナ海の内海化、ウイグル自治区や香港に対する抑圧と強引な共産化の手法は、自由主義国陣営の反撥を買っている。この延長上に尖閣諸島や沖縄の危惧もある訳で、まるで20世紀の混乱を再来させるかに見えて時代錯誤も甚だしいのだが、頑なに我が道を行く姿は不気味でもある。
人は自分の姿が見えないのを良いことに、社会に反することをやってのける場合がある。AIの技術を利用して他国の機密を盗み取るハッカー集団は、新しい情報戦の様相となって、その領域は宇宙にまで及ぼうとしている。ハッカー集団は知らない間にサーバーを乗っ取り、機密情報を盗むだけではなく、重要インフラを遠隔破壊する事態も既に起こしてきているのだ。国家間の情報戦は既に発動されていると言ってもよいだろう。何れは逆探知の技術も飛躍的に進歩して、自動的にハッカー集団の発信サーバーを破壊する技術も確立されるだろうが、行く行くは宇宙戦争『スターウォーズ』如きの、素っ気ない未来戦争を先取りして欲しくないものである。