かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

11.怪盗の賭け その1

2007-12-08 22:49:41 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
「そこで何をしているのかね?」
「え? あ、えーと、それはですねぇ・・・」
 しどろもどろになりながら、白川蘭は至極当たり前な質問からきたものだ、と思った。だが、答えるのもまた難しい質問だ。相手は催眠も効かないし、だからと言って簡単に言いつくろってすむとは思えない。それでも出来ることならなんとかこの場は誤魔化して、一時しのぎでいいから時間を稼ぎたい。そう考えながら答えあぐねているうちに、やや後ろに隠れるようにしていた美奈が、決意も新たに蘭の右横に足を踏み出した。
「ちょっと美奈ちゃ・・・」
「高原さんお願いです! この子達を、アルファとベータを放してやって下さい!」
 抑えようとした蘭が、あーやっちゃった、と手を額に当てて、天井を仰いだ。が、その後ろからハンスも高原に言った。
「実験動物トハヒドスギマス! 美奈サンノ言ウトオリ、自由ニシテアゲルベキデス!」
 すると高原は、能面のような表情のまま、三人に言った。
「この二匹は、DGgeneの存在が種を越えて存在する可能性を示唆する貴重な検体だ。人間には倫理上出来ない様々な実験が、この二匹で可能になる。それは、我々全人類、いや、地球上の夢を見なければならない全ての生物の未来に、夢魔との決別という喩えようもない幸福をもたらす鍵となる。可哀想、とか、許せない、というような安直なセンチメンタリズムで語られては迷惑だ」
「でも、アルファもベータも帰りを待つ人がいます。断りも無しに勝手にそんなことをする権利は、高原さんにもないはずです!」
 美奈はいつになく強く食い下がった。さすがに高原も感じるところはあったらしい。鉄面皮にわずかな亀裂が生じ、少し後ろめたさを覚えているかのようなゆがみが、唇の端に浮かんで、消えた。
「・・・私には時間が惜しい。確かに飼い主には申し訳ないと思うが、夢見る全ての生物の未来のため、譲歩願いたい。そのためなら、私の出来る範囲で可能な限りの償いをしよう・・・。だが、これだけは言わせて貰うが、私は貴重な検体をそう簡単に死なせる積もりはない。あの二匹を解剖するつもりはないし、これまでの大脳生理学者達みたいに、頭蓋骨をはずし、露出した脳に直接電極を取り付けたりもしない。いまやそう言う原始的な方法に頼らずとも、君たちも経験したような方法で苦痛なく実験ができるようになっている。その点は安心して欲しい」
「拘束くらい解いて上げたらどうなの?」
 開き直った蘭の挑戦的な目を見つめながら、高原は言った。
「勝手に暴れて採血管を抜かれたりしたら困るんだ。いずれ解くが今は駄目だ」
「でも!」
 なおも食い下がろうとする三人に、高原は右手を挙げた。
「さあ、議論は終わりだ。この区画は関係者以外立入禁止。君達にその資格はない。早々に立ち去り給え」
 高原は右足を半歩後ろに引いて、道を開いた。三人はまだ踏ん切りがつかず、ガラスの向こう側をのぞいたり、高原を見返したりしていたが、改めて高原が促すと、重い足取りで戻り始めた。
「ああ、白川君はここに侵入した時使ったセキュリティーカードを渡して貰おうか。全く、よく手に入れたものだと感心するが、今後このようなことは二度としないでくれたまえ」
 蘭はぶすっとした顔で、手にしたカードを高原に押し付けた。
 その時である。高原はちょっと待て、と手で蘭を制止すると、胸ポケットから携帯電話を取りだした。
「どうしたんだ? 何? 警察が・・・。判った、すぐ行く。絶対玄関から中に入れるんじゃないぞ!」
 高原は携帯をしまい込むと、蘭の差しだしたカードをひったくるように受け取って、白衣の裾を翻した。
「すぐに警備員を寄こすから、君達も早く戻るんだ。いいな!」
 大股で歩き去る高原の背中を眺めながら、蘭はひょっとして賭けがいい方向に転がってきているのかも、とほくそ笑んだ。だが、まだ気を緩めてはいけない。ここから先は、本当に幸運の女神の味方が必要になるに違いないからだ。
 蘭は、まだ未練たっぷりで後ろに残る二人に振り返って言った。
「さあ、この子達を助けるわよ!」
「でもカードキーが・・・?」
 といいかけて、美奈は、蘭の右手に光るセキュリティーカードに目を丸くした。一体どうして? 蘭はまた得意そうに笑顔を閃かせて二人に言った。
「盗人のたしなみ、よ」
 そしてそのまま躊躇いもなく、実験室の扉の横に付けられた読み取り装置にカードをスラッシュした。
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この「蜘蛛の糸」は人の心栄え次第で切れたりはしないようですが、なかなか魅力的な素材のようです。

2007-12-08 22:47:53 | Weblog
 突然御大からメールが届いて、テレビを見ていたら私が出ていて驚いた、とのこと。その言葉にはこちらのほうこそ驚きました。なにせ番組は関西限定と思いこんでいましたから。内容は一応それなりに硬派な教養番組なのですが、そこは大阪の政策ということで、なかなかコミカルな演出が施され、私も大根役者振りを発揮して、ハズカシイ姿をさらしておりました。それを見られたというのはなんともこっぱずかしい。まあいろいろ仕事もありますから、偶然こういうこともあったりするのでしょう。それにしても赤面しきり、です。

 さて、蜘蛛の糸、というとまず芥川の名作が頭に浮かんだりするのですが、あの地獄の罪人達がよってたかって上ってもはじめは切れなかった蜘蛛の糸、実は現実にも相当強い糸で、その強度は縦糸で防弾チョッキに使われる樹脂の約3倍。横糸は絹糸のこれも3倍程度の伸縮性があるのだそうです。蜘蛛の糸が強い、というのは昔から知られていて、何とかこれを量産せんもの、と各地で蜘蛛の養殖が試みられたとのことですが、蚕と違って蜘蛛は一箇所に密集させるとすぐに喧嘩して共食いなどはじめてしまい、糸を生産させることができず、これまでアメリカやドイツでも研究が進められているものの、開発には至っていないのだそうです。ところが、遺伝子工学がこの難題を見事解決したというニュースがもたらされました。なんと、蚕の遺伝子に蜘蛛が糸を作る遺伝子を導入し、現状で、クモの糸の成分が1割混ざっている糸をつむぎだすことに成功したとのことです。この成果が、信州大学と我が大和の国にいます民間企業との共同研究によるもの、というところがすばらしい。我が県の企業というと近隣の大阪や京都の企業と比べどうもぱっとしないというか、後進的で保守的な印象を否めなかったのですが、中には先取の気概あふれる企業もあったのですね。
 さてこの糸、「スパイダーシルク」という名前なのだそうですが、ちょっとこれはいまいち感じがよくない気が私にはします。もう少し格好いいか夢を見させてくれるようなセンスある命名はできないものかと思うのです。せめて商品化するとき位はいい名前を考えてもらいたいのですが、まったく縁のない企業でもないことですし、いっそいくつか検討してこれぞというやつを思いついたら提案してみようかしらん? などと妄想をたくましくしております。
 まだ研究は途上ということで、強度は絹糸の倍を目指して今後も開発が進められるそうですが、実に先行き楽しみな、研究者冥利に尽きるような夢のあるお話です。私も定年までにはそういう仕事をひとつやってみたいものです。



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今日のガソリンは1L150円でしたが、果たして来週はいくらになっているのでしょうか?

2007-12-07 23:26:20 | Weblog
 今朝の気温は5℃、と毎日朝の気温の記録をしてどうするのか、という感じなのですが、しばらくは暖かかったり寒かったり、とめまぐるしく数字が変化することでしょう。それも年明けくらいまでで、1月中旬から2月中旬くらいの1ヶ月は、ほぼ連日氷点下になるに決まっていますので、そうなったらもう書くこともなくなるんじゃないかと思います。

 さて、今日は1週間ぶりにガソリンをバイクに補給したのですが、なるほど、ずいぶん値上がりしていますね。1L150円になっておりました。確か前に入れたときは143円でしたから、一気に7円上がったことになります。報道によると、OPECが原油増産を見送った、という話ですし、中国、インドは相変わらず旺盛な需要で買い捲っているんでしょうし、となるとわが国のガソリンが安くなる可能性はほとんどなく、かえって更に上がる可能性ばかりが高まるのではないでしょうか。前々から思っていましたけど、本気で1L200円超えの心配をしておいたほうがよいのかもしれません。
 それにしてもこの事態、いったい誰の責任なのかと考えますと、やっぱり政府や経済産業省の失策なんじゃないか、と思わざるを得なかったりします。わが国のように、石油のほぼ全量を海外に頼るしかない運命を背負っているというのに、一時石油が世界的にだぶついたときに、石油採掘の自主開発を怠った報いが今来ているような気がしてならないのです。せめて今からでも、「石油の一滴は血の一滴!」とでもキャンペーンを張って、可能な限りの予算を突っ込んで石油確保に尽力してもいいんじゃないでしょうか。もはや手遅れ、という気もしないでもないですが、このまま石油価格が上がって国民の窮乏が耐え難いレベルまで進行してしまうのを座視するわけにもいかないでしょう。
 そんな中、道路特定財源を暫定税率のまま今後10年間据え置くことで与党と政府が合意した、との報道がありました。揮発油税などは、本則が定めた税率の約2倍の暫定税率を適用したままずっと何年も来ているわけですが、それがこのまま行けば更に10年もの間、そのままになるということになります。一方この財源の一般財源化を公約として先の参院選を戦ったはずの民主党は、、議題によっては子供の喧嘩にしか見えなかろうとともかく自民党に対して対決姿勢を維持しているのにたいし、この問題に関してはいまいち煮え切らない態度に終始しているようです。まあガソリンでいうと暫定税率の上乗せ分は24円程度だそうですから、この分が解除されたとしても、将来200円になろうかというガソリン価格には結局さほどの影響も与えられないのかもしれませんが、少しでもこれでガソリンの値下げができたなら、それは民主党の面目躍如、ということになるんじゃないか、と思うだけに、なんとも残念ではあります。
 やはりここはわが国のお家芸を発揮して更に省エネな車を作ったりすることで乗り切るしかないのでしょうか。その点についても、若い世代の科学技術や工学への関心の薄さが不安材料だったりするのですが。

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10.ナノモレキュラーサイエンティフィック その3

2007-12-07 22:43:36 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 微妙に雰囲気が変わった・・・。
 何故か判らないが、さっきまでの吉住と、今榊を追い出しにかかっている吉住とが、榊にはまるで別人のように感じられた。見た目の年齢に似ず、底の見えない懐深さを感じさせた吉住の様子が、急に年齢相応の薄っぺらい底が見えたように感じられたのである。
 榊はわざとゆっくりコーヒーカップをテーブルに戻すと、にこやかな笑顔を作って吉住に言った。
「これはどうもお邪魔を致しました。もう少し鑑識の調べが進みましたら、今度は実物を持って改めてお話を伺いに来るかも知れません。とにかく今日はありがとうございました」
「え、ええ、またいつでもいらして下さい」
「では」
 再び吉住と握手を交わした榊は、やはり雰囲気が変わっていることを確信した。握り方、握力、微妙な汗ばみ、などが、明らかに初めと違う。それはあまりに微妙な差で、特にそういうことを意識していなければ多分気づくことはないに違いない話だ。だが、榊の研ぎ澄まされたプロフェッショナルの勘は、その微妙な変化を見逃さなかった。
 出来るだけ近いうちにもう一度来てみる必要がありそうだ。
 榊は吉住の顔をもう一度見据え、相手の微かな動揺に気づかぬ振りをしながら、建物を出た。
「さて、当面あまり得るものもなかったが・・・」
 どうしたものか、と考えながらキーを車のドアに差し込んだときだった。胸ポケットに入れてあった携帯電話が、勢いよく震えて榊の注意を促した。誰からかとディスプレイに目を落とすと、警視庁からの呼び出しである。
 榊は人知れずふっと溜息をついて、受話ボタンを押した。
「はい、榊だ」
『警部! どちらにいらっしゃるんです?』
 電話の声は、部下の刑事からだった。あまり推理が冴えるとか、逮捕術に堪能というような特技はない代わりに、緻密なスケジュール管理能力という、ハードワークが続く榊にとっては無くてはならない特技を持っている。
「ちょっと出先だが、一体何かね?」
『今日は怪盗二四一号の犯行予告日ですよ。いったいどうなさるのか、特別チームのリーダーである警部の指示無しでは、どうにも動けませんよ!』
 夢見小僧の犯行予告日? 榊はそんなことかとほっと息をついた。もっとのっぴきならない仕事だったら、麗夢達の手助けを諦めねばならないところだ。榊はあっさりと相手に言った。
「いいよ、今日は中止だ。あれから二四一号も現れる気配がないし、第一、犯行予定の相手からは何か連絡があったかね?」
『いえ、ありませんが・・・』
「ならいいよ。どうせまたすっぽかされるのが落ちだ。警備要請があったわけでもないのにのこのこ出ていくわけにもいかんしな」
『では、茨城県警への応援も、中止と言うことで連絡していいですね?』
「ああ・・・ん? ちょっと待てよ?」
 榊は茨城県と聞いてふと思い出したことがあった。そう言えば最後に来た犯行予告は、確か・・・。
『どうしたんです? 警部?』
 榊は、黙りこくったのをいぶかる部下に質問した。
「そう言えば、今日の予告はどこだったかな?」
 するとスピーカーの向うで、心底呆れた、と言うような大げさな溜息が聞こえてきた。
『頼みますよ、警部! 茨城県先端科学技術工業団地にある、ドリームジェノミクス社ですよ。研究成果を頂戴しますって、ちゃんと警部もご覧になったでしょう?』 
 ドリームジェノミクス社? 榊は山の麓で見た地図を思い出した。なんだ、隣の企業じゃないか。
「判った判った。とにかく今日は中止だ。今私がそのドリームなんとかの近くまで来ているから、ちょっと様子だけ見て戻るよ。課長にもそう言っといてくれ」
『なんでそんなところに? 行かれるなら予定をおっしゃっていただかないと』
「いいから! 後は頼んだぞ」
『わかりましたぁ』
 榊はようやく電話を直すと、改めて隣に建つその建物を見た。まあこれも仕事のうち、折角ここまで来たのだから、様子をうかがうくらいはいいだろう。
 榊は車に乗り込むと、隣の区画に向けて、ハンドルを切った。
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富士山が噴火するとして、そのとき自分がどこにいるかが問題かもしれません。

2007-12-06 22:48:57 | Weblog
 昨日、「4℃なら大したことはない」みたいなことを書いて高をくくっておりましたら、今朝の国道電光表示板に現れた気温は0℃。さすがに寒かったですね。やはり今年の冬はそれなりにまともな冬になるのかもしれません。
 とはいえ秋の風物詩だったはずの紅葉がこちらでも大分遅れていて、葛城山や二上山で、ようやく常緑の杉と紅葉する落葉樹とがまだら模様にはっきり見分けがつくようになりました。というか、今日やっと山の姿がそうなっていることに気がついたのですが。色づきといえば柿もずいぶん色づくのが遅れましたし、みかんもだんだん南のほうでは作りにくくなってきて、九州南部では今世紀半ばにはもうみかんが作れなくなるかもしれないのだとか。あれもこれも地球温暖化、という化け物のせいらしいですが、既にいろんなところで爪あとを残していってるみたいです。
 ところで、自然現象にはほかにもいろいろ恐ろしいものがありますが、たまたま車で聞いてきたラジオで、富士山が噴火したらどうなるのか、という話をしておりました。まず東海道新幹線と東名高速道路は運休および閉鎖、とこのあたりはまあなるほどさもありなん、と容易に納得できるのですが、更には航空路も使えなくなり、どうやら風向きによるのでしょうが、成田や羽田も閉鎖を余儀なくされるのだそうです。ほかにも想像してみるに、火山灰が東海から関東に降り積もって都市機能も麻痺するのでしょうし、噴火の規模によっては気象すら捻じ曲げてしまうかもしれません。とりわけ、物流の麻痺は大都市にとっては死活問題であり、一発の噴火で我が国の首都はROMちゃんに支配されるのと同然な状態に陥り、国そのものが危殆に瀕するのかもしれません。
 とはいえ、鹿児島県の桜島を始め、しょっちゅう火山灰が降る中で生活している人たちが何万人もわが国には存在するわけですし、そうなったらなったで、案外しぶとく図太く、生きていけるものなのかも、とも思えます。ようはいつどれだけの規模で噴火するかなのですが、平均すると120年に一度の割で噴火する日本最大の活火山。それが1707年以来噴火していないということですから、統計的にはいつ噴火してもおかしくない状況ともいえるわけで、いつだったか火山直下のマグマが動いていることを示す低周波地震なるものが頻発した、という情報もあったりしましたから、やっぱりいつの日か噴火する日が必ず来るのだろうな、と思われます。関東方面にも友人知人はたくさんいますし、何より自分が関東にいる確率がここ数年30分の1くらいになると見積もられますから、自分自身が被災する可能性もけして低くはないわけです。とりあえず国や関係自治体などで噴火を予測するための観測体制を作っているようですし、関東全域を巻き込むほどな大噴火なら、予知することも何とかなのかもしれません。そんな成果を期待しつつ、あの秀麗な山容がいびつに変化しないことを祈りたいと思います。

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テラ豚丼って、そんなに非難されなくちゃいけないことだったんでしょうか?

2007-12-05 22:49:34 | Weblog
 12月に入ったからか、通勤途上のとある国道筋の電光掲示板に、気温が表示されておりました。今朝の表示温度は4℃。まあ低温には違いないですが、まだ道が凍るには少々高い温度ですし、真冬にはマイナス3℃や4℃くらいは結構出てくることを思えば、まだまだ序の口といえる気温です。実際グローブだけでは半分も行かぬうちに手がこごえて難儀するのは、この表示がマイナス2℃になったあたりからですので、4℃、と言う表示を見ると、寒いな、というより、まだまだ暖かい、という風に私などは見てしまいます。

 さて、メガ牛丼に対抗した? テラ豚丼なるものを試作して撮影しネットで公開したアルバイト2人が、処分されたのだそうです。どういう処分なのかは非公開ですのでよく判りませんが、解雇されたか減給されたか、というところでしょうか。この行為によって非買運動でも起こって店の売り上げに響きでもしたらひょっとして損害賠償なんて話もあるのかもしれませんけど、実際のところはどうなのでしょう? 40通ほどのメール、電話等での抗議があったという報道ですが、それくらいですと、抗議殺到、というほどでもないような気がいたします。
 まあその行為自体はまことに馬鹿馬鹿しいことではありますが、私としては、なんとなくほほえましさも覚えないこともありませんでした。大昔からパイ投げなど食べ物を笑いに使う例はあったわけですし、ここは大馬鹿野郎! と一括して大目玉をひとつ食らわせれば、後は笑って済ませてもよかったんじゃないか、という気が、私にはするのです。
 それよりも私は、メガ牛丼なる醜悪な食べ物が冗談ではなく販売されていることのほうがよほど食の冒涜のように感じますし、昨今メディアで取りざたされる「大食い」を見世物にして喜ぶ風潮にこそ、異様で病的なものを覚えます。
 日本人は基本的に肉体の構造が大食いに対応しておらず、欧米人に比べて食べ過ぎによる糖尿病等いわゆるメタボリックシンドロームを患いやすい人種です。それだけでなく、肉の食いすぎは大腸ガンのリスクを上げるようでもありますし、子供のうち、若いうちから脂肪のうまみにおぼれきってしまうと、現在の中高年よりずっと早く、肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧などの疾患に蝕まれていくことでしょう。それにわが国は食料自給率が半分にもみたず、国内生産自体も、海外から輸入する石油なしには成り立たない脆弱な産業構造を持っています。そんな国民が大食いを娯楽とし、日常的に食べ過ぎを享楽するのは倒錯的で末期的な様相に見えます。
 「食べ物を粗末にするな」というのなら、この機会に、自らの食生活を見直してみてはいかがかと思うのです。
 テラ豚丼は確かにほめられない行為ではありましたが、あれは漫画的なデフォルメであり、非日常的な笑いの要素があると感じました。それよりも、ブロイラーにえさを詰め込むがごとく展開される日常風景にこそ、非難すべき点があるのではないか、と私は思います。

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私には理科が一番面白い教科だと感じるのですが、世間一般は違うんでしょうか?

2007-12-04 22:17:52 | Weblog
 さてさて、民主党は何をやっているのでしょうね。大阪府知事選挙で小沢党首以下中央では独自候補を擁立し、自民党と相乗りしないよう指示を出している一方で、地元大阪ではこれまでの経緯もあって、自公との相乗りを模索中だとか。中央同様対決姿勢を強調することで民主党の存在感をアピールしたいのでしょうが、今、多分一番簡単に国民の支持を得られそうなのは、揮発油税を安くすることを主張することじゃないかと私は思います。もともと一般財源化とかいろいろ議論の出ている部分でもあり、また平成5年から高額の暫定税率が適応されていることでもあるのですから、妙な配給券を配ったりすることを考えるより、よほど広範な国民の支持を得られること疑いなしと思うのですが。とはいえ、民主党にも道路族議員がいるみたいで、そうなると内実は自民党となんら変わらない様ですし、そんな政策を打ち出すのは無理なのかもしれませんね。となると本当に民主党という政党が必要なのかどうか、道路関係ひとつだけで語るのも乱暴だとは思うのですが、大連立構想などというものを党首自ら真剣に考えたりするあたりからしても、どうもこのところ、その存在意義には疑問を感じざるを得なかったりします。

 さて、経済協力開発機構が、2006年に世界57カ国・地域およそ40万人の15歳対象に実施した、国際学力テスト「学習到達度調査」の結果を発表したそうです。報道を見る限り、軒並み日本は成績の順位を下げているみたいですが、まあ悲鳴を上げるほどでもなく、一応上位にランクインしている様子が伺えます。問題はアンケート調査の結果のほうで、理科に関する関心・意欲の指標が参加国中最下位、「科学に関する雑誌や新聞を読む」ことなど6項目で評価する「活動」の指標も最下位。「楽しさ」に関しても2番目に低い結果になったことです。いったいなんで理科の人気がかくも落ち込んでいるんでしょう? 私など子供のころは理科が一番好きだったものですが、今の学習内容は私の学んだころとは大きく様変わりしていたりするんでしょうか。文部科学相は順位に関しては気にしなくていい、とのたまいつつ、理科への関心の低さに対しては、「政策の中でより理科教育の充実が必要だと感じている」とのことで、今後理科の授業時間を増やす必要を指摘したそうです。資源のないわが国が今後も世界に伍してやっていくためにはやっぱり技術開発力が大事だと思いますし、授業時間を増やしていくことには何の反対もないのですが、ただ時間を増やすだけで、理科への関心を高めることができるのかどうかについては、少々疑問です。そもそもどうして理科への関心が低いのか、まずその点を明らかにする方法を模索する必要があるんじゃないかと思います。


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実績に自信があってやる気もあるなら、無所属で出ればいいんです。

2007-12-03 22:28:55 | Weblog
 今日は朝から久々に本格的な雨が降っていて、合羽やグローブがずぶぬれになりました。グローブは乾燥機に放り込んで何とか乾かしたのですが、午前中は雨模様、午後からもどんよりした天気で、合羽のほうは生乾きよりやや湿り気多目、という感じにしかならず、帰りに着るのが少々難儀しました。まあ帰りは雲こそ多かったものの雨が降るところまでは行きませんでしたから、まあ良しとしましょう。

 さて、大阪府も今年知事選をするのだそうで、年末忙しい中で選挙が行われるのだそうです。その知事選、これまで2期8年をこなしてきた現職が、本人意欲に燃えているにもかかわらず、3期目に立候補すらできずに終わってしまうのだとか。スキャンダルで失脚した横山知事の後を受けて、清新さを売りに誕生した日本初の女性知事、それに地方選挙は大抵現職が有利なもので、3期目ならまだ多選批判を受けるほどでもないことを思えば、これはずいぶん異例なことのようにも見えます。報道されているお金の問題も、講演会のなど確かに講師料にしては高額にも思えますし、東京の親族宅の事務所費も看過することもできないとは思えますが、全体としてはそう大した金額でもなく、ご本人ののたまうごとく、法的には問題ないということならばいくらでも失地回復する機会もあったのではないかと思います。私はそんなことよりも、そういうお金の問題にかこつけて有力政党や団体がこぞって擁立を見送ったという事態にあって、なぜ立候補をあきらめてしまったのか、というのがなんとも解せません。8年の長きに渡って大阪府政を取り仕切ってきたのは確かなのですから、その間、府民のために十分な施策を行ってきたという自信があるのなら、無所属で立候補すればよいのです。府民だって、自分達のために働く首長であるなら、マスコミや政党がいかにこき下ろそうとも、そうそう落選させたりもしないでしょう。それなのに、政党や団体の応援が得られないから立候補を取りやめるとは、いったい府民以外の誰に顔を向けて知事の仕事していたのか、とその姿勢を疑いたくなります。それに実際のところ、この女性知事が何をしたかというと、あまりその業績を思い出すことができません。毎年大相撲大阪場所で土俵に上がるの上がらないのでもめているのだけは覚えているのですが、地方において絶対権力者ともいうべき知事にしてそんな瑣末時しか記憶に残らないというのはかなり問題があるのではないかと思います。今度の知事選ではどんな候補者がでるのか、共産党以外はまだわからない状況ですが、大阪の人々も、そろそろ人気投票代わりに知事を選ぶのはやめるべきでしょうし、そろそろ懲りてもいるんじゃなかろうか、とも思います。まあ府民ではない私には選挙権はありませんし、対岸の火事ということでしばらく楽しませてもらうつもりです。

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10.ナノモレキュラーサイエンティフィック その2

2007-12-02 22:45:57 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
「このバッチをよく見えるところに付けて、正面入り口手前の来客用駐車場にお回り下さい。バッチはお帰りのさい、こちらに返却願います」
 榊は礼を言って、相談・6と記された縁色の丸いバッチを受け取った。クリップを襟に止め、車に戻る。門の前の二人の警備員が左右に下がり、ついで黒光りする鋼鉄製の門が、観音開きに左右へと道を開けた。榊はまだこちらを見つめ続ける三人の視線を意識しながら、言われた通り建物前のロータリーに侵入し、来客用駐車場に足を降ろした。
(なかなか物々しいな)
 榊は、更に建物前に陣取っている二人の警備員に気づいた。背格好がさっきの三人とほぼ同じくらいで、制服の下の分厚い胸板が、居丈高に榊を睨み付けているようだ。榊は車をロックすると、警戒の視線を浴びつつ、正面の自動ドアに歩み寄った。すると、ガラス越しにひょろりとした白衣の姿が見えた。年は若い。恐らく鬼童とそう変わらないだろう。ただ銀縁眼鏡の奥に光る目は、鬼童と違った意味で一種の危なさを覚えさせた。
「初めまして、榊警部。私がこのナノモレキュラーサイエンティフィックの社長をしております吉住です」
 この若者が?! 榊は少し面食らって、握手の手をさしのべる青年の顔を凝視した。
「驚かれましたか? まあうちのようなベンチャーの社長は大抵私くらいの若造ですよ。さあこちらへ」
 榊は握手もそこそこに気持ちを引き締め直すと、先に立つ吉住の後を追って建物内部に侵入した。
 内部は吹き抜けのように天井が高く、大きく取られたガラス窓が壁面を埋め、ちょっとしたホテルのような雰囲気のあるフロアである。吉住は奥の窓際に並べられた応接セットに榊を招き、改めて名刺を差し出した。ナノモレキュラーサイエンティフィック代表取締役社長 博士(工学)吉住明。丸みを帯びた文字が横書きに並び、左肩に色とりどりの小さなボールが幾つも繋がった、二センチ角位のイラストが描かれている。その下に丸く切り抜かれた吉住の顔写真が、微笑み未満の表情でこちらを見つめいていた。榊は目の前のガラステーブルに名刺を置くと、早速警察手帳を取りだした。
「今日はお忙しいところを申し訳ありません。来訪の主旨は簡単に電話で申し上げた通りですが、もう少し詳しく伺いたく・・・」
「お知りになりたいのは、糖で出来た小さな針、でしたね」
「ええ。事件現場の遺留品なんですが、鑑識から非常に微細な針だ、と連絡がありましてね、そこで色々調べてみましたら、御社の開発されているものに近いのではないか、と思われたのですよ」
「ものは見せていただけますか?」
「いや、今のところはまだ鑑識で検査中ですので。何やら針の中に残留物があるらしく、それを解析する積もりらしいのですよ」
 しゃべりながら榊は、相手の様子をじっと観察していた。だが、若いくせに相当肝が据わっているのか、あるいは本当に無関係なのか、ともかく今のところは榊の眼力を持ってしても、その態度に変わったところは見受けられない。
「それで、その針の大きさは?」
「長さが約一・二ミリメートル、太さが五から一〇ミクロン程度だそうです」
 榊が警察手帳を見ながら答えた。もちろん数字は、警視庁の誇る鑑識のデータではなく、鬼童海丸が実測したものである。すると吉住は、なるほど、と言いながら腕を組んだ。
「確かにマイクロニードルのようですね。ですが、恐らくうちのものではないでしょう。きっと京都で作られたものではないですか?」
 榊は、そう来たか、と鬼童の助言を思い出した。
「それは、京都の私大工学部と組んだベンチャー企業のことをおっしゃっているんですね、吉住さん」
 すると今度は吉住も軽く目を見張って驚いて見せた。
「よくご存じですね、警部のおっしゃるとおりですよ」
「そちらの方は、京都府警を通じて照会を掛けているところです。それより、御社じゃない理由を伺いたいのですが」
「それは、うちはまだ開発に成功したばかりで、商品化まで至ってないからですよ。太さ八・五マイクロメートル、人の髪の毛の半分以下の太さでマイクロニードルの量産に成功したのは京都が最初ですからね。とはいえ今はまだ一本百円もする超高級針です。そこでうちは、あっちとは違う工程で、より効率よく作ることを目指しているんですよ。ただ、まだ開発途中で、うちには商品と言えるものがありません」
「試作品ならあるんじゃないですか?」
「それはもちろんありますよ。でもうちでは一番の極秘物件です。この建物から出る事は絶対あり得ません」
 吉住の口調が少し早口になった。態度は相変わらず落ち着いて見えるが、内心少し興奮しているらしい。ただ、事件への関与と結びつけるほどの手応えは、榊には感じられなかった。これははずしたかも、と内心の落胆を顔に出さぬよう注意しながら、
榊が時間稼ぎに目の前のコーヒーに手を伸ばしたとき、突然、吉住が腕時計に目を落として言った。
「も、申し訳ないです。少し人を待たせておりまして、取りあえず今日のところはお引き取り願えませんか?」


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気づかない間に1000投稿超えておりました(これで1006投稿のはず)。

2007-12-02 22:45:20 | Weblog
 ふと気になって確認してみたのですが、なんと、いつの間にやらこのブログ、投稿数が1000を超えておりました。もうすぐだな、という感じはしていたのですが、この年末ごろになるはず、と考えていたのです。ところが目算が大きく狂い、すでに先月28日の投稿で、1000を達成しておりました。おかしい、いくらなんでも早すぎる、と考えてみましたところ、そういえば小説連載で1日2投稿している日が結構あることに気がつきました。「ドリームジェノミクス」だけで30投稿ほどありますから、それだけでほぼ1か月分に相当します。それが予想より大幅に早く1000に到達した原因とわかりました。ずっと1000投稿では何か記念になることを、と考えていたのですが、まだ先のこと、とのんびり構えていたせいで、今はまだ何の準備も整っておりません。この上はとりあえず記念事業はまた改めて考えることにして、しばらくは通常営業で参りたいと思います。

 さて、ネットニュースを渉猟しておりましたら、「優秀な社員をやめさせない方法」なる記事があり、ちょっと興味を引かれて読んでみました。「規律の範囲内で自由を与える」とか「正しく褒める」とか16のポイントが列挙されています。一つ一つはまあなるほどな、というか、当たり前というか、それなりに頷ける話であります。中でも私の琴線に響いたのは、「雑草を排除する」つまりあまりに非効率過ぎる輩や仕事に対して後ろ向きの人は、ほかの仕事する人に悪影響を与えるから排除せよ、という一言で、昨今次々暴露される公務員の困った連中の実態や、自分の職場の状況を鑑みるに、是非実践願いたいと思う事柄ではあります。ただ、実際にそれが実践できるかどうかは別の問題で、そんなことができるのならとっくの昔に実現して効率的かつ生産的な組織に変わっていてもおかしくないと思われるのです。
 いろいろな経済啓蒙書やセミナー、講演会などで、ビジネスで成功するための秘訣、なるものを見たり聞いたりしているのですが、どうも内容的には昔々の孫呉の兵法からなんら新しい進歩はないような感じがしてなりません。ビジネス書にはわざわざ昔の兵法書の活用を説くものまであるくらいですが、結局その兵法書にしてみたところで、それを実践して勝利を得た人が歴史上どれくらいいるのか、というと、ほとんどいないように感じられます。ビジネスにしても、いくら過去の成功例やそこからくみ上げた成功法則を知ったからといって、直ちにそれを自分の成功につなげられる人はあまりいないように感じます。
 つまるところビジネスも戦争も政治も、勝てる人はおのずから勝ち方を知る人であって、要するにそういう才能に恵まれた一握りの人間であるに過ぎないのではないのでしょうか。後はその才能をどこまで磨くのかという努力の量と、芽が出るきっかけがつかめるかどうかの運の強さ次第で、勝負の行方が決まるように思います。
 結局この種の啓蒙も、大勢の凡人に埋もれているわずかな数の能力者を発掘するきっかけにはあっても、全ての人に成功を約束するわけではない、と、これもまた当たり前のことかもしれませんが、そんなことをふと考えさせられました。

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10.ナノモレキュラーサイエンティフィック その1

2007-12-01 23:29:41 | 麗夢小説『ドリームジェノミクス』
 「こういうのは専門外なんだがな・・・」
 そればかりか管轄外でもある。
 常磐道を降りてから約三〇分、こわばった首を回しながら、榊はようやく車を降りて、『茨城県先端科学技術工業団地』、と仰々しく太ゴシック体で書かれた看板と、碁盤目に細分化された地図を見上げた。
 周囲は緑なす山々が取り囲む、ハイキングならお似合いの山間地だ。だが、目的とする目の前の山だけ少し様子が異なっていた。遠くから見ると、ふもとのあたりは周りの山とさして変わらないのだが、上半分がざっくりとえぐり取られたように平らにならされており、上部の斜面も芝と思われる背の低い草で覆われている。その山へ登っていく一本きりの道は、緑深い山の中に伸びていく様に見えてはなはだ心許ない。榊はいつもながらのくたびれたコートのポケットに右手を突っ込み、くしゃくしゃになりかけのラークの箱を取り出しながら、目的の社名をその地図に探した。更に一〇〇円ライターを胸ポケットから捜し出し、くわえ煙草に火を付けた辺りで、ようやく地図の左端上方に、その名前を見つけることが出来た。
「ナノモレキュラーサイエンティフィック、か」
 呟いてはみたものの、何をする会社か榊にはさっぱり判らなかった。ベンチャー企業の一つで、鬼童によると途轍もなく小さな針を作る技術を開発しているところだそうだが、そこに一体どんな手がかりがあるのか、ここまで来ても榊にはまるで見当が付かない。
「それにしても、がら空きだな、ここは」
 ざっと見渡した地図には、企業の名前が入っていない土地が大半を占めていた。出来て間もない工業団地というせいもあるのだろうが、昨今の不景気で、思うように企業が集まらないのだろう。めぼしい企業というと、目的の会社のすぐ脇に、「ドリームジェノミクス社」と書いてあるくらいだ。榊は取りあえず場所を確認したところで、ライターとラークの箱を再び乱暴にコートのポケットに突っ込んだ。道は、地図によると、いったん山に登った後、更に一番端までぐるりと一本道を行かねばならないことになる。
「さて、と。もうひとがんばりだな」
 再び車の運転席に戻った榊は、たばこを一旦車の灰皿に押し込み、エンジンを始動した。
 
 しばらくは藪の中をただひたすら走り続け、ぐるりと山を巡るようにしてカーブを切ったところで、目的の工業団地が目に入った。
 団地は全体として全くの平面というわけではなく、幾つかの大まかな区画が、段々畑のように別れて山の斜面に沿って並んでいる。その斜面だけはきれいに植裁された背の低い草で覆われており、赤や白の可憐な花がそこここで咲いているのが見えた。一方、分譲用の土地はお世辞にもきれいとは言えなかった。ふもとの地図は正しかったようで、榊の見るところ、ほとんどの土地が、むき出しになった赤土の原野に、所々思い出したようにかすれたような緑を点じる、背丈の低い雑草が生えているばかりの裸地であった。そんな殺風景な景色の中を、ま新しいアスファルトをしいた立派な道路が伸びていく。本来ならこの団地を行き来する車で賑わう道なのだろうが、今ここを走るのは、ただ榊の車ばかりであった。
 しばらく走って造成地の丘を一つ越えたところで、目的の建物が見えてきた。赤茶と緑で埋め尽くされた中に並び立つ、二つの白色の建物が、まるで浮き上がっているかのようにはっきり見えた。特にちょうど太陽の角度がいいと見えて、壁面を埋め尽くすガラスの反射がまぶしく、一種の神々しささえ覚えかねない景色だ。下の地図によれば、あの位置はドリーム何とか社と目的のナノモレキュラーサイエンティフィックということだろう。
 榊は更に団地内道路を飛ばし、程なくナノモレキュラーサイエンティフィックの正門に辿り着いた。もう一つの建物はちょうど手前の建物と重なって、ここからは半分しか見えない。一旦車を止めて外に出た榊は、途端に両脇から投げかけられた物々しい視線を意識した。見ると陸自か機動隊で鍛え上げたような屈強の偉丈夫が二人、一昔前の警官のような警備員ルックに身を固めて、じっとこっちを見据えている。ただの警備員にしては眼光が鋭すぎる。警戒というよりはほとんど敵意に近いんじゃないか? と榊はその視線を受け止めながら、ぴたりと閉じた門の右外れに建っている、警備員の詰め所に歩み寄った。窓口にも同じ格好の警備員がおり、胡散臭そうな目つきで榊をじろじろと見ながら、口調だけは丁寧に記帳簿とペンを榊に差し出した。
「そこに名前と御社の名称、弊社の誰にアポを取っていらっしゃるか、来訪の目的を記入して下さい」
 真新しい記帳簿に並ぶのは、筑波大学や城西大学、精密工学系の大企業の関係者であり、中にはマスコミの名前も散見された。その最下段の空いている一行に、独特の力強い字で自分の名前と、「警視庁」、の一言を書き付ける。アポイントは鬼童の研究所を出る前にここの社長に取ってあるので、それをそのまま記載する。すると、警備員は即座に電話の受話器を上げ、内線を繋いで確認を入れた。
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去年の今頃はPCも体調も最悪、今年はPCだけ異常。来年は双方元気に年末を迎えたいです。

2007-12-01 23:29:13 | Weblog
 ごくありきたりな物言いではありますが、今年もとうとう後1ヶ月、カレンダーも最後の1枚になりました、といいつつ、まだ11月のをめくっていないのですが(苦笑)。
 12月になると、もう冬、というイメージがあるのですが、今年は紅葉が大きく遅れ、今頃見ごろになっているところもありますし、うちの近所のバス通りの銀杏並木も、それなりに黄色く見えてきました。どうも茶色っぽく見える黄色で、あまり美しさを感じないのですが、近寄るとまだ少し緑が残っていたりする葉もあり、多分今年は綺麗な銀杏の色づきを目にすることはできないのでしょう。昼間はセーターも要らないくらい暖かいですし、本格的な冬、という長期予報は果たしていつごろから始まるのか、気になるところではあります。特に今年は、夏も猛暑の予報だったのにいつまでたっても暑くならず、これは予報がはずれたか、と思い出した途端急に暑くなって、結局最近でも有数の猛暑の夏、ということになりましたし、秋は秋でいつまでたっても暖かいと思えば急に寒くなったり、また暖かくなったりと猫の目のようにめまぐるしく変化しました。その分から行けば、この冬だって思いもよらない形で訪れる可能性があります。いきなりドカ雪が降ってきたりとか、小春日和が一転して北風厳しい真冬の寒さになったりとか、体にはつらい厄介な天気になるんじゃないかと危惧しています。
 もっとも、昨年はずっと体調がすぐれず、何かと苦労させられましたが、今年は比較的調子がいいので、気まぐれな天候の変動にも何とか具合が悪くなることもなくついていけています。それに、去年の今頃は「記念誌」生産で大変忙しかったですが、今年はそういう点では比較的のんびりと構えて日々をすごしており、そういう精神的なゆとりも良いほうに働いているのでしょう。まあその分本業のほうがやたらと時間を食うようになってきたので、実質の空き時間はさほどあるわけではないのですが。
 そういえば、昨年もちょうど今頃PCの調子がおかしくなり、結局マザーボード上の電解コンデンサを付け替える、という外科手術を余儀なくされましたが、今年もまた奇しくもPCの調子が悪化しています。真夏、空調も使わずに酷使する無理が今頃出てきたりするんでしょうか? 今朝もスイッチを入れたらいきなり画面が真っ青になって、チェックディスクを始めてくれましたが、その様子を見るにやっぱり具合が悪化しているのはハードディスクではなかろうか、と思われます。バルクの内臓ハードディスクを通販で買うのは少々勇気が要りますので、なんとか日本橋にでも行く機会を作りたいところです。

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