Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

五嶋みどり

2014年10月09日 | 音楽
 五嶋みどりの現代音楽プログラム。全6曲のすべてが未知の曲、しかもその内2曲は作曲家の名前すら知らなかった。だが、至れり尽くせりというか、サントリーホールのホームページにはナクソス・ミュージック・ライブラリーへのリンクが貼られ、5曲の試聴ができるようになっていた(残りの1曲は同ライブラリーには未登録)。また、五嶋みどりのホームペーには全6曲の解説がアップされた。

 五嶋みどり自身の執筆によるこの解説が面白かった。痒いところに手が届くような、じつに行き届いた解説だ。しかも演奏家としての視点が盛り込まれている。事前に各曲の聴き方というか、聴くときの切り口が準備できた。

 五嶋みどりは聴衆とのコミュニケーション能力に秀でた人だと感心した。なにを伝えなければならないかという、聴衆との回路ができている人だ。たんに技巧を誇るだけの人ではない。

 プログラムの構成も見事だった。前半3曲はシリアスな曲だ。聴衆の集中力を極限まで求める。後半3曲はリラックスしたエンタテイメント性のある曲に転じる。聴衆は緊張から解放される。

 順を追って記述すると、1曲目はクセナキスの「ディクタス」(1979)。この曲でもう五嶋みどりの水際立った技巧に打ちのめされた。音が拍節その他すべての束縛から自由になり、どこか予想のつかないところへ飛んでいくようだ。

 2曲目はシュニトケの「ヴァイオリン・ソナタ第3番」(1994)。最晩年のシュニトケの、ひび割れた、崩壊寸前の音たちが痛ましい。3曲目はサーリアホの「カリス(聖杯)」(2009)。繊細な弱音の集中力がすごい。どこか異次元に引き込まれそうだ。

 後半に入って、4曲目はハートキHartke(1952‐)の「根付‐NETSUKE‐」(2011)。未知の作曲家だが、これが面白かった。ロサンゼルス郡立美術館に所蔵されている日本の工芸品「根付」6点に着想を得た小品。独特の即物的なユーモアがあった。

 5曲目はダヴィドフスキーDavidovsky(1934‐)の「シンクロニズムス第9番」(1988)。あらかじめ録音された電子音とヴァイオリンとの対話。電子音の空間性がライブならではだ。最後はジョン・アダムズの「ロード・ムーヴィーズ」(1995)。この作曲家らしいノリノリの曲だ。

 以上、五嶋みどりによる極上の現代音楽アンソロジーを楽しんだ。
(2014.10.8.サントリーホール)
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