Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

パリ日記1:トスカ

2014年11月05日 | 音楽
 10月下旬に休暇を取れることになったので、どこでなにをやっているか調べてみた。いろいろ観たいものがあったが、結局パリのガルニエでスティーヴ・ライヒの「18人の音楽家のための音楽」にダンスを付けた演目があったので、それにした。その前後に新演出のオペラ3作がある。では、パリにじっとしているか――と。

 最初に観たのはオペラ「トスカ」。「トスカ」を観るのは何年ぶりだろう。10年か、ひょっとすると20年ぶりくらいではないだろうか。

 一番の興味はピエール・オディPierre Audiの新演出だ。オディ(アウディとも表記される)はネーデルランド国立オペラの芸術監督を務めている人だ。

 第1幕は岩山をくりぬいた石窟(のように見えた)。石窟には教会がしつらえられている。中央には地上から石窟に降りる階段がある。階段をはさんで向かって右側にはカヴァラドッシが絵を描いている仕事場。左側には礼拝堂。

 アンジェロッティもスカルピアも岩山の上から登場する。岩山はかなり高いので、その登場の場面はインパクトがある。第1幕最後のテ・デウムの場面も司教の行列は岩山の上に登場する。威圧するような様子だ。司教の足に接吻するスカルピア。

 パリでオペラを観たことは何度かあるが、いわゆる読み替えとか、テクストにたいする批判的な視点とかはあまり感じない代わりに、視覚的なインパクトがある例がある。これもその一つだ。

 第2幕は普通の(イタリア的な赤い色調の)スカルピアの部屋。だが、頭上に巨大な十字架が吊り下がっている。黒光りした十字架。舞台全面にのしかかるようだ。

 第3幕は聖アンジェロ城ではなく、戦場の野営地のように見えた。今年は第一次世界大戦開戦から100年目に当たるので、その関係だろうか。頭上の十字架はそのまま残っている。カヴァラドッシを処刑する兵士に祝福を与える従軍牧師。なんだかやり切れない光景だ。そして処刑。さて、トスカは(身を投げる場所がないのだが)どうするか。突然、上から紗幕が落ちてきた。トスカの死の暗示か。舞台奥に歩み去るトスカ。で、幕。

 歌手はミラノやロンドン、ニューヨークでも歌っている人たちだが、新国立劇場もひけを取らない、という水準だった。むしろダニエル・オーレン指揮のオーケストラに感心した。煽るだけではなく、しっとりした部分に聴きどころがあった。
(2014.10.29.パリ国立歌劇場バスティーユ)
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