Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

セザール・フランクの教会

2014年11月10日 | 音楽
 パリの話題をもう少し。今回は6泊もしたので、今まで行けなかった所にもずいぶん行けた。セザール・フランク(1822‐1890)がオルガニストを務めていたサント・クロチルド教会(※)もその一つだ。

 大学を出て間もない頃(まだ20代の前半だ)、フランクに嵌まった時期があった。きっかけはヴァイオリン・ソナタだった。仕事からまっすぐ帰った日は、毎晩のように聴いていた。そのうち他の曲にも手を広げた。ピアノ五重奏曲はなかでも好きだった。わたしは密かにフランキストを自認していた。

 フランクは遅咲きの大家だ。楽才は早くからあらわれ、父親は(モーツァルトの父親のように)フランクを売り出そうとしたが、フランクの控えめな性格は、それには向かなかった。父親から離れ、パリで生活を始めた(フランクはベルギー生まれだが、パリ音楽院に学んだ。その後ベルギーに帰国したが、再びパリに戻った)。

 フランクはいくつかの教会オルガニストを務めた。1858年にサント・クロチルド教会のオルガニストに就任してからは、亡くなるまでその職に留まった。後年パリ音楽院の教授になったが、サント・クロチルド教会のオルガニストは続けた。

 サント・クロチルド教会ってどういう所だろうと、昔から考えていた。行ったこともないのに、セピア色の古い写真のようなイメージが、わたしの中にできていた。

 その教会は、サンジェルマン通りから一本奥に入った裏通りにあった。あたりは静かな住宅街だ。2本の尖塔が聳えている。それほど大きくはない。堂々としているが、重厚というよりも、シャープな感じだ。中に入ってみると、意外に明るかった。窓が多いことに加えて、壁が白っぽいからだ。暗い教会が多い中で、一風変わっていた。

 見上げるとオルガンがあった。白っぽい教会内部にあって、オルガンだけが焦げ茶色だ。重厚な感じがした。パンフレットを読むと、初代のオルガニストはフランクだったと(少し誇らしげに)書いてある。それを読んで、わたしも嬉しくなった。

 帰国して、週末に、久しぶりにフランクのオルガン曲「前奏曲、フーガと変奏曲」を聴いた(アンドレ・イゾワールの演奏)。驚いたことに、目の前にあの明るい教会の内部が、パッと浮かんできた。清澄な世界。わたしの精神にこびり付いた垢が、洗い清められるようだった。

 これは個人的な感覚だが――、この曲の本質が分かったような気がした。

(※)サント・クロチルド教会
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%81%E3%83%AB%E3%83%89%E8%81%96%E5%A0%82
コメント
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