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Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

「悪童日記」三部作

2015年01月06日 | 読書
 昨秋、映画「悪童日記」が公開された。観に行こうと思っていた矢先に、樋口裕一氏のブログ(左欄のブックマーク参照)で原作の存在を知った(2014年11月1日付け)。読んでみたら、ひじょうに面白かった。

 作者はアゴタ・クリストフAgota Kristof(1935‐2011)。ハンガリー生まれの女性作家だ。1956年のハンガリー動乱で国外脱出し、スイスのヌーシャテル近郊に落ち着いた。ヌーシャテルはフランス語圏だ。生活の必要からフランス語を学んだ。フランス語で書いたデビュー作が「悪童日記」だ(1986年)。世界的なベストセラーになった。日本語訳は1991年に出た(堀茂樹訳、早川書房)。

 「悪童日記」は双子の兄弟が主人公だ。かれらの眼を通した第2次世界大戦の末期から戦争終結、ソ連による支配そしてハンガリー動乱までの社会が描かれている。20世紀のもっとも過酷な状況の一つだ。その過酷な状況を兄弟はどうやって生き抜いたか――。

 生き抜くためには善悪の区別など二の次だった。なにをやってでも生き抜かなければならなかった。今の時代には想像もできない凄まじい物語。震撼しながら頁を繰っていくと、衝撃的なラストシーンが待っていた。わたしは慌てた。方向感を失った。

 前述の樋口氏のブログで「悪童日記」は三部作であることを知った。続編の「ふたりの証拠」(1988年、日本語訳は1991年)も読んでみた。これも面白かった。書き方がまるで違う。そしてここでも衝撃的な結末が待っていた。

 第3作の「第三の嘘」(1991年、日本語訳は1992年)も読んだ。前2作の真相を語る作品ではあるが、‘真相’が推理小説のように明らかにされるというよりも、三部作全体が濃い霧の中に韜晦するような読後感を持った。

 年末年始の休暇中に「昨日」(1995年、日本語訳も同年)も読んでみた。「悪童日記」三部作とは切り離された作品だが、その延長線上にある。故国ハンガリーを脱出した人々の現実を描いた小説だ。自由を求めて脱出したが、脱出先で待っていたものは、必ずしも喜ばしい自由ではなかった。そこでの生活に馴染めない人々は、自殺したり、(捕えられるのを覚悟の上で)故国に戻ったり――。

 上記4作品を読んで、20世紀の過酷な状況の一つを追体験したような気がする。同時に、互いに関連する物語でありながら、それぞれ違った書き方をしている、その文学的な冒険に引き込まれた。

↓「悪童日記」
http://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784151200021
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