Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

さまよえるオランダ人

2015年01月29日 | 音楽
 新国立劇場の「さまよえるオランダ人」。内心微かな危惧を抱いていたのだが、どうしてどうして、立派なものだった。

 さて、なにから述べるか。やはり飯守泰次郎の指揮から始めよう。前回「パルジファル」で成功を収めたが、「パルジファル」は何度も振っている得意のレパートリーだ。「さまよえるオランダ人」はどうかと――。よかった。基本的には「パルジファル」と同じ音楽作りだ。欧米人の剛直な、骨太い音とは異なる、肌理の細かい音だった。

 功名心とか野心とか、そんな余計なものを削ぎ落とした、恬淡とした、澄み切った心境が感じられた。飯守さん――と呼ばせてもらいたい――には東京シティ・フィルの常任時代から共感を持っていた。その飯守さんが、今こうして、解脱したような境地の演奏をするようになった。聴衆の一人として感慨深い。

 うっかりすると、これが‘日本人のワーグナー’かもしれないと言いたくなる。もちろんそんなことではないが、でも、西洋人の感じるワーグナーとは一味違う、飯守さんが到達したワーグナーだった。飯守さんは今、毎年一度、東京シティ・フィルを振ってブルックナー・チクルスを続けているが、それとも通じるものがあった。

 歌手もよかった。オランダ人を歌ったトーマス・ヨハネス・マイヤーは、暗く冷たい声がこの役にぴったりだ。マイヤーは2009年11月に「ヴォツェック」のタイトルロール、2010年10月に「アラベッラ」のマンドリカを歌った。記憶に残っている。特異な容貌も相まって、インパクトのある歌手だ。

 ゼンタ役のリカルダ・メルベート(この歌手も記憶に残っている)は、第2幕の例のバラードよりも、第3幕幕切れの、直線的に突き抜ける声に身震いした。初めて聴くラファウ・シヴェク(ダーラント役)とダニエル・キルヒ(エリック役)も高水準だ。日本人歌手は、マリー役の竹本節子、舵手役の望月哲也、ともに健闘していた。

 合唱はすでに定評のあるところだが、第1幕最後の男声合唱、第2幕冒頭の女声合唱そして第3幕冒頭の混声合唱、すべて透明度の高いソノリティを備えていた。

 マティアス・フォン・シュテークマンの演出については、もうなにも言いたくないが、あえて肯定的なことを言うなら、合唱の扱いが(とくに上記の3場面では舞台いっぱいに横並びになるので)、合唱には有利に働いた。だからといって、擁護する気にはなれないが。
(2015.1.28.新国立劇場)
コメント (1)
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