Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

こうもり

2015年02月07日 | 音楽
 新国立劇場の「こうもり」。2006年プレミエのこのプロダクション、今回で何度目の上演になるのだろう。わたしが観るのは3度目だ。

 演出はハインツ・ツェドニク。とくになにかをするわけではなく、かといって細かいところがなおざりにされているわけでもなく、一言でいって、ごくまっとうな演出だ。劇場側としては安心して使えるのだろう。

 演出よりもむしろ舞台美術に特色がある。「アール・デコの感覚を反映」させた(プログラムに掲載されたツェドニクの言葉)この舞台美術は、明るく淡い色調で美しい。心穏やかに見ていられる。第2幕のオルロフスキー侯爵の夜会の場面は、金の破片を散らしたレースの幕が、クリムトを想起させる。

 その舞台美術はオラフ・ツォンベックの担当。新国立劇場では「エレクトラ」と「タンホイザー」も担当した。「タンホイザー」は透明感のある美しい舞台だった。「エレクトラ」はインパクトの強い舞台だったと記憶するが、再演の機会がない。

 今回の指揮者はアルフレート・エシュヴェ。力をためることなく、あっさりと先へ先へと進むが、オーケストラとよく噛み合っている。なるほど、こういう流れかと、観客にも分かりやすい音楽づくりだ。全体の構成がすっきり見えてくる。ウィーン・フォルクスオーパーのキャリアが長い人らしい。同劇場ではほとんどリハーサルもせずに、ぶっつけ本番で公演に臨んでいるのだろう。そういう劇場で鍛えられた指揮者だ。

 歌手は、アイゼンシュタイン役のアドリアン・エレートがさすがだ。技術がしっかりしているので、現代オペラも歌える歌手だが、昨年のドン・ジョバンニや今回のアイゼンシュタイン(アイゼンシュタインは2度目だ)も正確無比だ。

 ロザリンデ役のアレクサンドラ・ラインプレヒトは、声は豊かなのだが、音程に甘さがある。一方、アデーレ役のジェニファー・オローリンは、声は細いが、音程はしっかりしている。オルロフスキー侯爵役のマヌエラ・レオンハルツベルガーは、声にも容姿にも妖しい魅力があった。

 総じてとくに不足はない公演だが、シャンパンのような弾ける魅力には欠けていた。すべての出来事をシャンパンの泡に帰すこのオペレッタが、ソフトドリンクのように人畜無害なものになってしまった。ストレスのまったくない公演。ファミリーで楽しめる公演。でも、このオペレッタの本質はどこかに行ってしまった。
(2015.2.6.新国立劇場)
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