Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

TRANSMUSIC特別公演

2015年09月02日 | 音楽
 サントリー・サマーフェスの「TRANSMISIC特別公演」で聴いた三輪眞弘の「万葉集の一節を主題とする変奏曲」が忘れられない。あのとき聴いたものはなんだったのだろうと。

 アコーディオン奏者が登場する。MIDIアコーディオンという楽器らしい。床に座り込んで「海ゆかば」を演奏する。ストリートミュージシャンのような風情だ。オーケストラのメンバーが登場する。総勢16人。室内オーケストラの編成だ。各自、席に着く。ただしバラバラの向きで。ギョッとする光景だ。

 打楽器奏者が風鈴を鳴らす。うちわで煽って。煽っているうちに微かに鳴りだす。戦争中の夏の情景が目に浮かぶ。広島に原爆が落とされた日の朝か。それとも8月15日の朝か。わたしは戦後生まれだが、そんな条件反射をする自分に驚いた。

 譜面台には小型の携帯端末が置かれている。スマホのようだ。光信号が点滅している。コンピュータ制御された‘メトロノーム’だ。ただし各人バラバラのテンポで。崩壊した音楽だろうか。でも、聴いていられる。不思議なものだ。

 アコーディオン奏者がキーボードを演奏する。「海ゆかば」だ。でも、いびつな姿に変形されている。傷ついた歌。ボロボロになった歌。最後にまた風鈴が鳴る。戦争中の夏の朝がまた浮かぶ。バラバラな方角を向いて座る演奏者たちは、空襲で、あるいは原爆で、廃墟となった街の風景だったろうかと思った。

 今年は戦後70年。音楽ではそれをどう受け止めればいいのだろう。最近ずっとそう考えていた。美術では東京近代美術館で「誰がためにたたかう?」という特集展示が開催されている(9月13日まで)。戦争画から始まって戦後70年の歩みをたどる好企画だ。それに相当する音楽での取り組みは?

 三輪眞弘の本作で、わたしのそんな悶々とした想いは、少しだけ応えられた。ホッとした。しかもビッグニュースが飛び込んできた。「海ゆかば」の作曲者信時潔(のぶとき・きよし)の「海道東征」が、11月28日に東京藝大奏楽堂で演奏されるそうだ。湯浅卓雄の指揮する東京藝大シンフォニーオーケストラ他の演奏。ナクソスがCDに収録する。

 「海道東征」は1940年の皇紀2600年奉祝曲の一つだ。SP音源はCD化されているが、実演だとどう聴こえるだろうか。戦後70年のキャッチャーミットに直球ストライクが投げ込まれるような感じだ。
(2015.8.26.サントリーホール小ホール)
コメント (2)
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