Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

藤木大地

2015年09月16日 | 音楽
 日生劇場のライマンのオペラ「リア」の公演で注目したカウンターテナー、藤木大地のリサイタルがあった。東京オペラシティのB→Cシリーズの一環。

 最初はアーン(1874‐1947)の歌曲。料理にたとえるなら、軽いオードブルのようなものか。次のバッハからコース料理が始まる。バッハは3曲。3曲目が「マタイ受難曲」から「主よ、憐れみたまえ」だった。ペテロの否認の後の涙にくれるアリア。バッハの中でももっともエモーショナルな曲ではないだろうか。

 次にマーラーの「原光」。交響曲第2番「復活」に使われた曲だ。バッハに感動したばかりだが、マーラーも濃いと思った。旋律線の質量が人並み外れている。神への憧れが込められた旋律線。バッハに涙した直後にマーラーにも涙することになった。

 次はヒンデミットの「前庭に最後のライラックが咲いたとき――我らが愛する人々へのレクイエム」(下野竜也/読響が演奏した曲だ)から1曲。そしてバーンスタインの「チチェスター詩編」から1曲。バーンスタインが甘く美しい。

 カーゲル(1931‐2008)の「バベルの塔」から「イタリア語」と「日本語」。「日本語」は最後にポン!と舌を鳴らせて終わる。思わず微笑。カーゲルらしいユーモアだ。

 前半最後の曲は西村朗の新作「木立をめぐる不思議」。大手拓次(1887‐1934)のシュールな詩に作曲したもの。変幻自在の緊張した音楽の中から言葉が浮き出てくる。水際立った歌とピアノだ。これが当夜の白眉だった。

 以上、文字通りB(バッハ)からC(コンテンポラリー)に至る音楽の旅。休憩後は逆にC→Bに戻る。B→Cシリーズの中でもこれほど徹底してそのコンセプトを具現化したプログラムは珍しい。藤木大地のレパートリーの広さに驚く。松本和将のピアノにも聴きほれる。

 後半1曲目はダヴ(1959‐)のオペラ「フライト」から1曲と前述のライマンのオペラ「リア」から1曲。藤木大地の現代オペラへの適性が見事だ。続くブリテンのオペラ「真夏の夜の夢」からの1曲では、なぜかブリテンらしさが伝わってこなかった。

 音楽の旅は、プーランク、ブラームス、シューベルト、ベートーヴェン、グルック、ヘンデルそしてバッハへと続く。どの曲にも思うところが多かった。それを語りだしたらきりがないが。アンコールにパーセルの1曲(ブリテン編)。
(2015.9.15.東京オペラシティリサイタルホール)
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