Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カンブルラン/読響

2015年09月07日 | 音楽
 カンブルランの指揮で「トリスタンとイゾルデ」。第1幕への前奏曲が入念に表情付けられた演奏。急遽ピンチヒッターに立ったイゾルデ役のレイチェル・ニコルズも無難な滑り出し。まずは一安心だ。第1幕の幕切れのコーンウォールへの到着の場面は、‘ひきつった’歓喜に息をのんだ。

 カンブルランは第2幕にピークをもってくるだろうと予想した。そう予想する方は他にもいただろう。第2幕を中心に据え、第1幕と第3幕でアーチを形成するのではないかと予想した。

 第2幕が始まって、予想どおりだと思った――そんな予想はまったく見当はずれだったことが第3幕に入って判明したが、それは後述する――。オーケストラの抑制された音の織物の上に歌手の声が乗る。正確に、かつ細心の配慮をもって演奏すれば、それだけでドラマになるはずだと確信しているような演奏だ。

 愛の二重唱の冒頭では、弦の精妙なリズムが浮き上がった。三宅幸夫氏のプログラムノーツを読んだら、その部分の譜面が引用されていた。4分の3拍子(やがてトリスタンが入ってきて、次にイゾルデが入ってくる、そのイゾルデの部分は、8分の9拍子で記譜されているが)の第1拍と第2拍は3分割し、第3拍は2分割、さらに第2拍の最後の音と第3拍の最初の音をタイでつないでアクセントをずらしている。カンブルラン/読響の演奏ではそれが正確に聴こえていたのではないだろうか。

 ブランゲーネの警告は、P席の後方、オルガンの前で歌われた。この場面のシュチュエーションにぴったりだ。クラウディア・マーンケの豊かな声が響き渡った。同幕終盤に登場するマルケ王はアッティラ・ユン。さすがに深々として他を圧する声だ。

 第3幕への前奏曲の後、牧人が吹くシャルマイの物寂しげな音が聴こえる。イングリッシュホルンで演奏されるが、その奏者が、やはりP席後方、オルガンの前に陣取った。高台から海を見張る牧人のイメージだ。これにも納得した。

 次に驚くべきことが起きた。イゾルデの到来を告げる喜びに満ちたシャルマイの合図が、イングリッシュホルンではなく、トランペットで演奏された。えッと思った。スコアを確かめてみたいが――。改変だとしたら、どんな根拠があるのだろう。
(※)本件についてはコメント欄をご参照ください。

 第3幕ではオーケストラがよく鳴った。気合の入った充実した音だ。前2幕との対比が鮮やかだった。カンブルランの意図だろう。
(2015.9.6.サントリーホール)
コメント (4)
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