Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

山田和樹/N響

2016年01月11日 | 音楽
 山田和樹がN響定期を初めて振るとあっては、否が応でも期待がふくらむ。さて、どんな名演が生まれるか――。

 プログラムにテーマ性があって、いかにも山田和樹らしい。1曲目はビゼーの小組曲「こどもの遊び」。昔(たぶん高校生の頃)アンセルメ指揮スイス・ロマンド管のLPでこの曲を知った。すぐに好きになった。わたしのあの頃の秘蔵の曲だった。

 プロのオーケストラには易しい曲だろうが、こういう曲でもN響がやるときっちりした演奏になるものだと思った。折り目正しい演奏。ハンカチの四隅を合わせて丁寧に畳んだような演奏。皮肉でいっているのではなく、素直にそう思った。

 2曲目はドビュッシーのバレエ音楽「おもちゃ箱」。プログラム・ノートを読んでいて気が付いたのだが、この曲は「遊戯」の後に書かれた。ドビュッシーの最後の曲の一つだから、それはそうだが、それにしても、モネの最晩年の絵のように抽象化が進んだ「遊戯」の後に、こんなに具象的な音楽が書かれたとは――。

 松嶋奈々子のナレーションが入った。お陰で舞台の動きがよく分かった。このバレエは「カルメン」を下敷きにしたようだ。人形の女の子が落とした花を、人形の兵士が拾ってうっとりする。兵士は女の子に恋をする。しかし女の子は人形のプルチネルラを好きになる。兵士はふられる。女の子はカルメン、兵士はドン・ホセ、プルチネルラはエスカミーリョ。ところがこのバレエでは、女の子はプルチネルラに捨てられて、兵士と結婚し、幸せな人生を送る。ハッピーエンドの「カルメン」。

 演奏は、といいたいところだが(※)、じつは松嶋奈々子に見とれてしまった。意外に長身だ。すらっとしていて美しい。髪型をアップにしているので、普段見慣れている写真とは印象が違う。わたしは小心なので、こういう美女をまっすぐ見ることができない。といいながら、オペラグラスでちらちら見てしまった。

 3曲目はストラヴィンスキーの「ペトルーシュカ」。1911年版なので4管編成。ステージいっぱいに陣取ったオーケストラが壮観だ。山田和樹らしいバランスのとれた緻密なアンサンブルを聴くことができた。

 でも、正直にいうと、あまりにも素直で、安定し過ぎてはいなかったろうか。日本フィルを振るときには、もっと思い切りのいい、踏み込んだ演奏をすることがある。それに比べると、今回は安全運転気味だったような気がする。
(2016.1.10.NHKホール)

(※)大事なことを書き忘れていた。ピアノは長尾洋史だった。さすがのセンス。キラリと光っていた。もちろん「ペトルーシュカ」も。
コメント
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