Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

プラド美術館展

2016年01月09日 | 美術
 三菱一号館美術館で開催中の「プラド美術館展」は、小さい作品を集めている点でユニークだ。明治時代の事務室(三菱一号館)を復元した同館の特性を活かした企画かと思ったら、2013年にプラド美術館で、また2014年にはバルセロナで開催された企画展の再構成だそうだ。

 プラド美術館には行ったことがないが、もし行ったら大作の数々に圧倒され、‘小さい作品’には目が届かないだろう。そんな見落としがちな作品に目を向ける意味でも、また小品を見る目を養うという意味でも、興味深い展覧会だ。

 作品総数は102点。かなりの数だ。第1室には板絵が数点展示されている。本展の‘目玉’扱いのヒエロニムス・ボス(1450頃‐1516)の「愚者の石の除去」(1500‐10頃)もここにある。板絵を見る機会はあまりないので、本当はいつまでも見ていたいのだが――。

 以下、概ね年代順に展示されている。気に入った作品があったら、じっくり見る。そんな‘お気に入り’を探す小旅行のような気分で見ていった。

 気に入った作品は次の2点だ。年代順に記すと、まずファン・バン・デル・アメン(1596‐1631)の「スモモとサワーチェリーの載った皿」(1631)。聞いたこともない画家だが、ハッとするほど瑞々しい作品だ。金属製の皿にスモモとチェリーが山盛りになっている。左上方から光が差し込んでいる。その光がスモモの濃紺の皮を照らし、またチェリーの赤い実を透き通らせている。皿にはスモモとチェリーの影が映る。

 本作のサイズは縦20㎝×横28㎝。もしプラド美術館で見たら、こんなにじっくり見ただろうか。見ても、気に留めなかったかもしれない。いや、うっかり見落としていたかもしれない。そんな自問自答をしながら歩を進めた。

 もう1点はゴヤ(1746‐1828)の「トビアスと天使」(1787頃)。中央に天使が立っている。背中から2枚の翼が大きく広がっている。翼も衣服も真っ白いレースのようだ。帯だけが淡いピンク色。天使は両手を広げている。その右手の下にトビアスがひざまずいて天使を見上げている。トビアスは橙色の衣をまとっている。手には魚を持っている。トビアスの足元には川が流れている。

 透明な叙情の世界。天使の祝福が感じられる。本作は縦63.5㎝×横51.5㎝。本作だってプラド美術館で見たら、こんなに心に染みたかどうか。
(2016.1.6.三菱一号館美術館)

上記の各作品の画像(本展のHP)
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