Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

広上淳一/日本フィル

2016年03月05日 | 音楽
 日本フィルの現代日本作曲家への作品委嘱シリーズ「日本フィル・シリーズ」の新作が初演された。尾高惇忠(おたか・あつただ)のピアノ協奏曲。ピアノは野田清隆。指揮は広上淳一。

 全3楽章。演奏時間は約30分。堂々たるピアノ協奏曲だ。どっしりした重みがある。構えも大きい。第1楽章は山あり谷ありの起伏の大きい音楽。第2楽章はクラリネット・ソロとピアノとの対話で始まる緩徐楽章。終盤のカデンツァが美しい。第3楽章は変拍子のスリル溢れる音楽。手に汗握って聴いているうちに終結部まで持っていかれた。

 バルトークとかなんとかのピアノ協奏曲よりも、矢代秋雄のピアノ協奏曲とのつながりを想った。矢代秋雄に遡る伝統。伝統とはこうして作られるのかと、伝統が形作られる現場にリアルタイムで立ち会っているような気分になった。

 野田清隆のピアノが瑞々しい。この曲を完璧に把握している。そんなふうに感じた。野田清隆は尾高惇忠のピアノ・ソナタも初演したそうだ。この作曲家の音楽語法をよく理解しているのだろう。広上淳一も完璧にこの曲を把握していたと思う。広上淳一は尾高惇忠のもとで作曲とピアノを学んだそうだ。師弟の関係。そういう人々の手で世に出たこの曲は幸せだ。

 本作は「日本フィル・シリーズ」の第41作。プログラムには第1作の矢代秋雄の「交響曲」(1958年)からそのすべての作品のリストが掲載された。今では日本の作曲の歴史の中で名作としての評価を得た作品も多い。下野竜也や山田和樹が再演、再々演を継続しているが、まだまだ取り上げてほしい作品がある。そんな想いを強くした。

 当夜の演奏会はシューベルトの「未完成」交響曲で始まった。尾高惇忠のピアノ協奏曲は2曲目。その「未完成」も好演だった。冒頭の低弦のモチーフからして幽玄。第1楽章を通して憂愁の情感漂う演奏。第2楽章はアンダンテの心地よいテンポで進んだ。中間部の激情溢れる演奏にも瞠目した。

 3曲目はベートーヴェンの「運命」。これも好演だった。特別変わったことをするわけではなく、オーソドックスな演奏なのだが、個々のフレーズはニュアンス豊かで、アンサンブルも整っている。揺るぎない精神の充実に支えられた演奏だった。

 全般的に広上淳一と日本フィルとの信頼関係が感じられた。一朝一夕には築けない信頼関係。その信頼関係の深まりが感じられた。
(2016.3.4.サントリーホール)
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