Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ツァグロゼク/読響

2016年03月18日 | 音楽
 ローター・ツァグロゼクは10年ぶりの来日だそうだ。ということは、N響定期を振ったあの時かと思い出す。ベルクのヴァイオリン協奏曲があった。ヴァイオリン独奏の樫本大進もさることながら、オーケストラの流暢な演奏に舌を巻いた。ベルクの音楽がほんとうに身についている演奏だった。

 そのツァグロゼクが読響を指揮した。1曲目はジョージ・ベンジャミン(1960‐)の「ダンス・フィギュアズ」(2004)。9曲の小品からなる約16分の曲。舞台を埋め尽くす大管弦楽のための曲だが、大管弦楽が咆哮することは皆無。様々な組み合わせの楽器群がむしろ薄めのテクスチュアを織る。

 第6曲“Hammers”だったと思うが、特徴的なリズムの動きが続いた。まるで音の粒子が飛び散るようだった。作曲者ベンジャミンの新鮮な感覚の表れだと思った。

 ベンジャミンは、現代イギリスの作曲家の中では、トーマス・アデス(1971‐)と並んでメジャーなオペラ・ハウスやオーケストラ、あるいは音楽祭でその名を見るが、作品を聴くのは初めてだった。ダンスのための作品だという本作だけで、ベンジャミンを云々することはできないが、ベンジャミンに触れることができただけでもよかった。

 ベンジャミンは2003年の武満徹作曲賞の審査員を務めたので、その時にはベンジャミンの作品も演奏されたのだろう。残念ながら、当時わたしは仕事が現役の真最中で、まったく余裕がなく、武満徹作曲賞までアンテナが延びていなかった。現役を退いた今になってやっと挽回を図っている気がする。

 2曲目はコダーイの組曲「ハーリ・ヤーノシュ」。この曲を生で聴くのは何年ぶりだろう。いや、何年ぶりなどではない、何十年ぶりだろう。それほどご無沙汰だった。演奏は切れのよいもの。わたしの気のせいかもしれないが、第5曲の“間奏曲”(例のツィンバロムが大活躍する曲)で、冒頭のテンポよりも、途中から(大雑把な言い方で申し訳ないが)テンポを微妙に落として、音価を引き延ばしているように感じた。その効果が抜群だった気がする。

 3曲目はベートーヴェンの交響曲第3番「英雄」。仮にベートーヴェンのスコアを無数の音符の図像と捉えて、その視覚イメージを音にしたらこうなるのではないか、というような演奏。粒のそろった音が果てしなく続く。正直にいうと、いつまでたっても変わらない風景のようでもあったが。
(2016.3.17.サントリーホール)
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