Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ルノワール展

2016年05月13日 | 美術
 先日、日経新聞に衝撃的な記事が載った。ルノワールに隠し子がいたという。ルノワールの幸福感あふれるイメージとは似合わない事実。ルノワールの既成のイメージから脱する契機になるかもしれないと思った。

 相手はリーズ・トレオ。ルノワールの若き日の恋人だ。2人は1865年に出会った。ルノワール24歳、リーズ17歳。リーズは1870年に女の子を産んだ。でも、2人は1872年に別れた。リーズはその年に別の男性と結婚した。ルノワールの子は連れ子として迎えられたのだろうか。その記事では触れられていなかったが。

 ルノワールは遺言でその子にも遺産を分けるように書いた。その子の存在はルノワール家では公然の秘密だったのかもしれない。ルノワールが亡くなったのは1919年。妻はその4年前に亡くなっている。妻も3人の息子も、その子の存在は知っていたが、世間には隠していたのだろうか。

 リーズはどんな人生を歩んだのだろう。ジャンヌと名付けられたその女の子は、どんな人生を歩んだのだろう。少なくとも遺産を分けるのだから、音信不通ということはなかったと思う。ルノワールはどう関わっていたのだろう。

 リーズは、東京の国立西洋美術館所蔵の「アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)」のモデルになった女性だ。1872年の作。2人が別れた年だ。2年前には女の子が生まれていた――。あの絵にはそんなエピソードが隠されていたのかと思った。

 本展にもリーズがモデルと考えられる作品が来ている。「横たわる半裸の女性」。これも1872年の作だ。縦29.5cm×横25㎝と小ぶりな絵。若い女性がベッドに横になっている。下着がはだけ、胸が露わになっている。官能的だが、両目はしっかり見開き、斜め上を見つめている。なにを考えているのだろう。ルノワールとの愛の終焉か。

 ルノワールの人生はそれほど平穏というわけでもなかった。労働者階級の生まれ。普仏戦争に従軍した。その後のパリ・コミューンへの弾圧は暗澹たる想いで眺めた。第一次世界大戦の勃発時には「この愚かな戦争」と嘆いている。息子たちは従軍して負傷した。さらに加えて、私生活では隠し子がいた。もっとも、この場合‘隠し子’という言葉が適当かどうかは分からないが。

 でも、そんな影は微塵も見せずに、幸福感あふれる明るい絵を一貫して描いた。ルノワールという人は強い人だったんだろうと思う。
(2016.5.12.国立新美術館)

(※)本展のHP
   日経新聞の記事(「横たわる半裸の女性」)
   国立西洋美術館の「アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)」
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