Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

栃木県立美術館「ウェザーリポート展」

2018年08月04日 | 美術
 東京新聞の7月13日夕刊に椹木野衣(さわらぎ・のい)氏の美術批評が掲載された。栃木県立美術館で開催中の「ウェザーリポート」展の紹介。その批評に惹かれたので、那須の山に登った折に、宇都宮に寄って見てきた。

 本展の開催趣旨は、風景画に見られるような水平方向の眼差しから、地面や湖などの自然環境に直接刻まれたアースワーク、そして風景画の成立に先立って存在したコスモグラフィア(地球画・宇宙画)の垂直方向の眼差しへと、わたしたちを導き、新たな世界画=ネオ・コスモグラフィアを探るという壮大なもの。

 同時にそれは、人間が住むに適した穏やかな自然環境を描いた風景画から、人間の都合とは無関係な自然の摂理(巨大地震、津波、スーパー台風、連続豪雨、竜巻の突発、大洪水など)へと立ち返ることを意味する。

 今世界中では“異常気象”が頻発し、犠牲者も出ているが、でも、それは地球という尺度で見れば、むしろ常態かもしれず、人間は本来、そのような過酷な自然環境の中で生きている。でも、生きている間はそれを忘れて、奇跡的にバランスのとれた自然環境を享受しているにすぎない、という視点。

 では、地球という惑星の本来の自然環境と向き合った芸術とは何か。それがネオ・コスモグラフィアなのか。それとも、それとは意味が違うのか。そもそも風景画の成立に先立って存在したというコスモグラフィアとは何か、と考えながら本展を見た。

 コスモグラフィアの例としては、プトレマイオスの著書「コスモグラフィア」(1482年)の中の図版とコペルニクスの著書「天球回転論」(1543年)の中の図版が展示されていた。前者は世界地図、後者は宇宙図のように見えた。

 一方、ネオ・コスモグラフィアの作例は、よくいえば多種多様、実感からいうと、とりとめがなく散漫な印象を受けた。たしかに垂直方向の眼差しは多くの作品に共通するが、上記のコンセプト(それ自体はひじょうに興味深い)の作品への結実という点では、手探りの段階にあるように感じた。

 そんな中で興味を持った作品は、小山穂太郎(1955‐)の「空間・-・空より No.1」(1989)という写真作品だった。縦232×横444という巨大な作品。夜空から引っ掻き傷のような線が無数に降ってくる。底辺には山並みが横たわっている。これは地球に降り注ぐ宇宙線の表現かと、わたしは解釈した。
(2018.7.20.栃木県立美術館)
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