Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

藤田嗣治「秋田の行事」

2018年08月12日 | 美術
 藤田嗣治(1886‐1968)は今年没後50年なので、それを記念して東京都美術館で大規模な回顧展が開かれている。というより、むしろ、今年にかぎらず数年おきに、東京をはじめとして全国各地で藤田展が開かれているのが実情だ。藤田の集客力の高さのゆえだろう。

 だが、どんなに大規模な企画展でも、めったにお目にかかれない超大作がある。秋田県立美術館が所蔵する「秋田の行事」という壁画(※)。縦3メートル65センチ、横20メートル50センチという大きさ。藤田の作品には大画面のものが他にもあるが、これほどのものはないと思う。

 本作は1937年(昭和12年)の制作。画面いっぱいに秋田の風俗が描かれている。その前年(1936年)に藤田がパリから連れてきたマドレーヌ・ルクーが急逝し、それを知った秋田の資産家・平野政吉が、マドレーヌ鎮魂のための美術館の建設を申し出る。藤田は多数の自作を譲渡することに加えて、壁画の制作を表明する。

 こうして制作されたのが本作だが、美術館は(着工されたものの)完成しなかった。本作は平野家の米蔵に保管され、1967年(昭和42年)の公開まで30年間の眠りにつく。

 わたしは今回初めて本作を見た。たしかに巨大な作品だが、あまり「大きさ」を感じなかった。画面構成が、堅牢というか、分かりやすいからだろう。大つかみにいうと、中央と左右との3ブロックに分かれている。

 中央には秋田名物の竿燈など、右には祭りやぐらと屋台、左には雪に埋もれた庶民の生活が描かれている。はっきりブロック分けされているので、ディテールを見るとき、なんといったらよいか、現在地を見失わない。また、そのディテールも面白い。たとえば竿燈が倒れて提灯が燃えていたりする。

 中央と左のブロックとの境目に犬が一匹いる。かなり目立つ。秋田犬ではなさそうだが(※※)、なんの犬か。もしかすると平野家の飼い犬かと想像を逞しくする。また右のブロックの屋台の奥に、顔がはっきり描かれている男性と女性がいる。男性は平野政吉か、と。

 だが、気になる点があった。秋田の風俗に対する共感が伝わってこないのだ。物珍しい風俗に対する好奇の目しか感じられない。本作の向かいに北京の相撲取りを描いた「北平の力士」(1935年)が展示されているが、その異国の力士を見る目と同じ目で、本作を描いているように感じられた。
(2018.8.3.秋田県立美術館)

(※)「秋田の行事」の画像(平野政吉美術財団のHP)

(※※)秋田犬のように見えなかった理由は、尾が丸まってなくて、長く伸びているからだが、でも、どうなのだろう。ギャラリートークに参加できたら質問したのだが、その時間がなかった。
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