Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ヴィトマンの室内楽

2018年08月26日 | 音楽
 サントリーホール国際作曲委嘱シリーズの今年のテーマ作曲家、イェルク・ヴィトマン(1973‐)の室内楽コンサート。曲目は6曲。その寸描を。

 1曲目はクラリネットとピアノのための「ミューズの涙」。オリエンタルな音調が漂う曲。コンサート終了後のヴィトマンと細川俊夫のアフタートークによれば、本作を書いていた頃(ヴィトマン19歳の頃)、ヴィトマンはボスニア紛争に心を痛めていたという。表題にはそれが反映されている。

 クラリネット独奏はヴィトマン。それが見事なのはいうまでもないが、ピアノ伴奏のキハラ良尚(よしなお)の感性にも注目した。東京藝大付属高校のピアノ科を卒業後、グラーツ音大と同大学院で指揮を学び、さらにベルリン芸術大学大学院でも指揮を学んだ。今後どういう活動をする人か。

 2曲目はホルン独奏のための「エア」。ホルンの朝顔をピアノ内部に向けて吹き、その息でピアノ線を震わせる。遥か遠くの微かな谺のような音響が生まれる。その玄妙な美しさは生演奏でないと味わえないかもしれない。今振り返ると、本作は当夜の中の白眉だった。

 演奏は福川伸陽。わたしはかれの演奏を日本フィル入団当時から聴いているが、当時からその才能は頭抜けていた。今ではほんとうに成長したと思う。アフタートークで細川が「(本作はミュンヘン国際コンクールの課題曲として作曲されたが)もし福川さんが出場していたら、優勝したのではないか」と絶賛していた。

 3曲目はクラリネット独奏のための「3つの影の踊り」。クラリネット独奏はいうまでもなくヴィトマン。エンターテイメント性も備えた超絶技巧の曲。

 4曲目は弦楽四重奏のための「狩の四重奏曲」。あれはいつだったか、初めてこの曲をCDで聴いたとき、絶叫が混じる荒々しさに、腰が抜けるほどびっくりした。でも、生で聴くと(演奏を見ると)、これはエンターテイメントだと分かる。最後に仕留められたチェロは、狩で追われた動物か、それとも仲間に裏切られた人か、と。

 最初に寸描と書いたが、長くなってしまった。5曲目は独奏ヴァイオリンのための「エチュード」第1~3曲。6曲目はオーボエ、A管クラリネット、F管ホルン、ファゴットとピアノのための「五重奏曲」。演奏者名は省略しよう。一言、「五重奏曲」を聴いて、ヴィトマンは演奏者を(そして聴衆も)活気づかせる作曲家だと思った。
(2018.8.25.サントリーホール小ホール)
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