サントリーホールのサマーフェスティバルは、数年前にプロデューサー・シリーズを導入してから、一段とおもしろくなった。企画者の「顔が見える」といったらよいか。同シリーズと細川俊夫監修の国際作曲委嘱シリーズと、その2本立てがサマーフェスティバルを充実させている。
今年のプロデューサーは野平一郎。ブーレーズの「プリ・スロン・プリ」を中心とするフランス音楽の演奏会をプロデュースするとともに、自身の新作オペラ「亡命」を発表した。台本は野平多美、英訳はロナルド・カヴァイエ。5人の声楽家と6人の器楽奏者のための室内オペラで、演奏時間は2時間余り。
時は1950年代、所はハンガリー。西側に亡命する作曲家ベルケシュ・ベーラとその妻ソーニャ、一方、亡命に失敗してハンガリーに止まる作曲家カトナ・ゾルタンとその妻エスターの物語。人物名からはバルトークとコダーイを連想するが、状況設定からはリゲティとクルタークを彷彿させる。
おもしろそうな題材なのだが、台本が素人っぽいので、期待外れに終わった、といわなければならない。台本の問題は3点あると思う。1点目はテーマが不発だったこと。オペラの幕切れでソーニャとエスターが電話で「私たちのどちらが「亡命」しているのかしら」と会話する場面があり、それがテーマだろうが、そこに至るまでの各々のドラマが描けていないので、その会話が浮いてしまった。
2点目は、ベーラが西側で成功する過程が、リゲティの成功譚をなぞっているが、その「なぞり方」が表面的で芸がないこと。そして3点目は、筋の進行を「語り」が説明するが、その「説明」が文字通り説明的なこと。
一方、音楽は成功していた。野平一郎の音楽は器楽的に発想されていると思っていたが、意外にオペラにも親和性がある。ただ、欲をいえば、現在(2017年)の精神科医の診察室のシーンが何度か挿入されるが、その音楽の「色」が、亡命のドラマと異なれば、鮮烈なコントラストがついたと思う。
演奏は、歌手も器楽奏者も、ひじょうによかった。松平敬、幸田浩子、鈴木准、山下浩司の実力派4人に加え、わたしには初めてだった小野美咲(メゾ・ソプラノ)もよく、とくに英語の「語り」はこの人が一番自然だった。
器楽奏者6人は(名前は省略するが)ため息が出るほどスリリングな演奏を展開した。
(2018.8.22&23.サントリーホール)
今年のプロデューサーは野平一郎。ブーレーズの「プリ・スロン・プリ」を中心とするフランス音楽の演奏会をプロデュースするとともに、自身の新作オペラ「亡命」を発表した。台本は野平多美、英訳はロナルド・カヴァイエ。5人の声楽家と6人の器楽奏者のための室内オペラで、演奏時間は2時間余り。
時は1950年代、所はハンガリー。西側に亡命する作曲家ベルケシュ・ベーラとその妻ソーニャ、一方、亡命に失敗してハンガリーに止まる作曲家カトナ・ゾルタンとその妻エスターの物語。人物名からはバルトークとコダーイを連想するが、状況設定からはリゲティとクルタークを彷彿させる。
おもしろそうな題材なのだが、台本が素人っぽいので、期待外れに終わった、といわなければならない。台本の問題は3点あると思う。1点目はテーマが不発だったこと。オペラの幕切れでソーニャとエスターが電話で「私たちのどちらが「亡命」しているのかしら」と会話する場面があり、それがテーマだろうが、そこに至るまでの各々のドラマが描けていないので、その会話が浮いてしまった。
2点目は、ベーラが西側で成功する過程が、リゲティの成功譚をなぞっているが、その「なぞり方」が表面的で芸がないこと。そして3点目は、筋の進行を「語り」が説明するが、その「説明」が文字通り説明的なこと。
一方、音楽は成功していた。野平一郎の音楽は器楽的に発想されていると思っていたが、意外にオペラにも親和性がある。ただ、欲をいえば、現在(2017年)の精神科医の診察室のシーンが何度か挿入されるが、その音楽の「色」が、亡命のドラマと異なれば、鮮烈なコントラストがついたと思う。
演奏は、歌手も器楽奏者も、ひじょうによかった。松平敬、幸田浩子、鈴木准、山下浩司の実力派4人に加え、わたしには初めてだった小野美咲(メゾ・ソプラノ)もよく、とくに英語の「語り」はこの人が一番自然だった。
器楽奏者6人は(名前は省略するが)ため息が出るほどスリリングな演奏を展開した。
(2018.8.22&23.サントリーホール)