Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

秋山和慶/新日本フィル

2024年03月04日 | 音楽
 友人からチケットをもらったので、新日本フィルの定期演奏会を聴いた。指揮は秋山和慶。1曲目は細川俊夫の「月夜の蓮―モーツァルトへのオマージュ―」。わたしは初めて聴く曲だ。相場ひろ氏のプログラムノートによれば、2006年にモーツァルトの生誕250年を記念して北ドイツ放送局の委嘱により書かれた曲だ。「モーツァルトのピアノ協奏曲から好きな曲を1曲挙げ、それと同様の楽器編成を用いて演奏することができるように」という依頼だった。細川俊夫はピアノ協奏曲第23番を選んだ。たしかに曲の最後にモーツァルトのピアノ協奏曲第23番の第2楽章が出てくる。モーツァルトが書いた音楽の中でももっとも甘美な音楽だ。

 「月夜の蓮」は、産みの苦しみと、開化の直後の晴れやかな静けさを感じさせる音楽だ(ホルン協奏曲「開花の時」(2011年)に通じる)。前半の苦しみの部分ではクラリネットやピッコロの金切り声のような音が耳に刺さる。後半の静かな部分ではティンパニの上に並べた4個(?)の鈴(りん)と風鈴の音がさわやかだ。

 ピアノ独奏は児玉桃。2006年の初演のときも児玉桃だった(指揮は準・メルクル、オーケストラは北ドイツ放送響)。プロフィールによれば、児玉桃は小澤征爾指揮水戸室内管ともこの曲を演奏したそうだ。

 2曲目はラフマニノフの交響曲第2番。歌いすぎると冗長になるきらいのある曲だが、そこはさすがに秋山和慶。歌におぼれず、リズムは粘らず、細部を彫琢して、堂々と構えた演奏だ。オーケストラもよく鳴った。個別のパートでは(1曲目の細川作品でも目立ったが)クラリネットの首席奏者の表情豊かな演奏に注目した。マルコス・ペレス・ミランダという奏者だ。

 秋山和慶はいま83歳だ。現役最長老の指揮者のひとりだが、音楽が崩れていない。1歳年上の飯守泰次郎亡き後、秋山和慶が元気なのは頼もしい。今回の細川作品もそうだが、プログラムが守りに入らず、攻めの姿勢を保つ(たとえば昨年7月の東京シティ・フィルのときはスクリャービンの交響曲第4番「法悦の詩」を振った。また今年6月の日本フィルではベルクの「管弦楽のための3つの小品」を振る)。秋山和慶はいま聴くべき指揮者だと思う。

 今回の演奏会は、兄弟子的な存在の小澤征爾の訃報が伝えられた直後で、かつオーケストラが小澤征爾ゆかりの新日本フィルなので、追悼の何かがあるかもしれないと思ったが、それはなかった。そんなパフォーマンスはしない点も秋山和慶らしい。もっとも内心はどうだろう。人一倍悲しみを抱えているのかもしれない。
(2024.3.2.すみだトリフォニーホール)
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