Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

オペラ「紫苑物語」と石川直樹の写真展

2019年02月23日 | 音楽
 わたしは2月20日に新国立劇場でオペラ「紫苑物語」を観たが、その前に同劇場に隣接する東京オペラシティのアートギャラリーに立ち寄り、かねてから見たかった石川直樹の写真展「この星の光の地図を写す」を見た。

 同展は、北極圏やヒマラヤの高峰K2、さらにはポリネシア・トライアングル(ハワイ諸島、ニュージーランドとイースター島を結ぶ三角形の海域。そこには無数の島々があり、古来、人々の行き来があった)、あるいは日本の東北地方や沖縄などを写した写真展だ。それを見ていると、「地球には中心も辺境もない。どんなところにも人々の生活があるだけ」という思いがした。

 その後、オペラ「紫苑物語」を観て、その日はそれで終わったのだが、後日ある人から、「石川直樹は石川淳の孫なんだってね」と聞いた。それには驚いた。祖父の小説を原作とするオペラが上演されている劇場の隣で、孫の写真展が開かれているとは――。

 主催者側(アートギャラリー)は、石川直樹と石川淳の関係を知らなかったらしい。まったくの偶然だったそうだ。2月22日のNHKラジオ番組「すっぴん!」に石川直樹がゲスト出演して、パーソナリティの高橋源一郎との会話の中でその話題が出たらしい。高橋源一郎はオペラ「紫苑物語」のプログラムにエッセイを寄稿しているので、その点で高橋源一郎もこの不思議な縁につながる。

 石川直樹は、写真家であると同時に、K2に登るほどの登山家でもあるので、わたしの中では石川淳とまったく結びついていなかった。でも、そういわれてみると、(強引な推論かもしれないが)その写真の、世界を中心~辺境のヒエラルキーをつけずにフラットに見る、あるいは世界の隅々の人々の生活を等価値に見る、そんな視点が、祖父の石川淳の文学を思わせないでもない、という気がしてきた。

 石川淳の小説の中では、「紫苑物語」はむしろ例外的な作品で、たとえば応仁の乱を背景にした「修羅」などに石川淳の思想が窺われるが、その思想はかなりアナーキーだ。石川淳の場合は政治に関心が向くが、それを政治から離して、惑星としての地球を眺める視点に移すと、そこに石川直樹の写真世界が現れる気がする。

 とはいっても、石川直樹は石川淳の孫であることを標榜していないので、わたしたちからそれを意識されることは、むしろ迷惑かもしれない。それもまた石川淳の孫らしい。
(2019.2.20.東京オペラシティ・アートギャラリー)

(※)写真展「この星の光の地図を写す」のHP

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