Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ピンチャー/EIC:細川俊夫「二人静」他

2021年08月23日 | 音楽
 今年のサントリーホール・サマーフェスティバルは、パリの現代音楽演奏集団「アンサンブル・アンテルコンタンポラン」とその音楽監督マティアス・ピンチャー(1971‐)のミニフェスティバルのようになった。

 初日は「東洋-西洋のスパーク」と題され、アンサンブル・アンテルコンタンポラン(以下「EIC」)が委嘱して作曲された細川俊夫(1955‐)のオペラ「二人静~海から来た少女」(2017)とマーラーの「大地の歌」(グレン・コーティーズ編曲)が演奏された。

 「二人静~海から来た少女」(以下「二人静」)は能の「二人静」に基づくオペラだ。台本は平田オリザによる。能の「二人静」は、源義経の愛人・静御前の霊が吉野の菜摘女(なつみおんな)にとりつき、供養を願う話だが、平田オリザは菜摘女を地中海のどこかの海辺に漂着した難民の少女(中東かアフリカからの難民)に置き換えた。静御前の悲劇と難民の少女の悲劇とが重なる。

 わたしはこのオペラを聴きながら、先日インターネットで見た写真を思い出した。その写真は、アフガニスタンが陥落し、多くの人々が国外に逃げようとカブール空港に殺到したとき、空港に置き去りにされた赤ん坊の写真だ。どんな事情で赤ん坊が置き去りにされたかは知る由もないが、その赤ん坊が今後どんな運命をたどるか、心を痛めた。

 そのような難民の悲劇はいまの地球上の至る所にあるにちがいない。このオペラはそれらの悲劇につながるオペラだ。静御前の霊は「吉野山 峰の白雪 ふみわけて 入りにし人の 跡ぞ恋しき」(「入りにし人」とは源義経のこと)と歌い、少女に「あなたも北に向かうのでしょう。雪があなたの足跡を消してくれる」と語る。

 音楽は近年の細川俊夫のスタイルだ。ますます雄弁さを増している。息苦しいまでの音圧で迫ってくる。寡黙と雄弁、繊細さと豪胆さ、微細な音と野太い音、弛緩と緊張――それらの対照的な要素が同居している。40分程度の短いオペラだが、凝縮されたドラマになっている。EICの演奏はシャープで見事なものだった。少女役はソプラノのシェシュティン・アヴェモ、静御前役は能声楽の青木涼子。西洋音楽の歌唱と能声楽が協演する。違和感はなかった。

 「大地の歌」は室内アンサンブル(というより小編成のオーケストラ)のための編曲版だが(弦楽器を中心に日本の奏者が加わった)、演奏云々よりも、なぜこの曲がプログラムに組まれたのか、疑問が拭えなかった。細川俊夫の「二人静」は同じく細川俊夫のモノドラマ「大鴉」(2014)と「姉妹関係をなす作品」(プログラム・ノート)だそうなので、「大鴉」とのダブルビルはできなかったのかと思うが。
(2021.8.22.サントリーホール)

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