Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

古代エジプト展

2021年05月11日 | 美術
 東京都に緊急事態宣言が出される前のことだが、用事があって渋谷に出たついでに、「古代エジプト展」に寄った。平日の午前中だったにもかかわらず、意外に混んでいた(感覚的には夕方のスーパーマーケットくらいか)。その後、緊急事態宣言が発令され、同展は休止になった。緊急事態宣言は5月11日の期限後も延長された。延長後は、オペラやコンサートは観客の50パーセント規制を条件に開催を認められたが、美術館と博物館は休館要請が継続されている(※)。それについて思うことはあるが、わたしの出る幕ではないので、書くのは止めよう。

 それよりも同展の感想を書いておきたい。圧巻だったのは、何体ものミイラの棺(ひつぎ)を立てて並べたコーナーだ。ミイラの棺がどんなものかは、上掲(↑)のチラシの通りだが、会場でこれらの棺と向き合っていると、横に寝かせた棺を上から見るのとはちがって、なんともいえない存在感があった。

 チラシの中央の大きな棺は「ホルの外棺」。紀元前722~655年頃のものだ。その左は「アメンヘテプの内棺」。紀元前1190~944年頃のもの。胴体に描かれた図像が、ホルの場合は平面的に描かれているのにたいして、アメンヘテプの場合は微かに浮き上がっている。左端は「アメンヘテプのミイラ覆い」。この図像も浮き上がっている。アメンヘテプの「ミイラ覆い」と「内棺」は、同展でわたしが一番美しいと感じたものだ。

 中央の「ホルの外棺」の右は「パネシィの外棺」。紀元前943~745年頃のものだ。黒一色である点が特徴だ。会場の解説によると、黒は「肥沃な大地」を表すらしい。その右は「コンスウヘテプのミイラ覆い」。紀元前1190~944年頃のもの。アメンヘテプの「ミイラ覆い」そして「内棺」と同時代なので、様式的な共通性を感じる。

 どの棺も木製だ。いまから約3000年前に作られたものだが、意外にもつようだ。人間の顔とか、アイラインの化粧とかは、現代と変わらない。死生観は当時といまとではだいぶちがうだろうが、それをいったら、死生観はいまでも地域や信仰によって多様なので、死生観のちがいなど何ほどのものか、という気もする。そう考えると、約3000年という年月は長いのか短いのか、よくわからない。人類の歴史というスパンで考えると、約3000年はあっという間だろう。そんな感覚を実感できたことが、本展の一番の収穫だった。

 チラシには載っていないが、「ハイトエムハトの棺」(紀元前722~332年頃のもの)というものがあった。その棺は小首をかしげている。ほかの棺が首をまっすぐ立てているのと比べて、柔和な感じがする。体型はふくよかで、色は白い。ほかの棺よりも時代が下がっているので、人々の意識が変わってきたのだろうか。
(2021.4.19.BUNKAMURAザ・ミュージアム)

(※)各美術館・博物館の5月12日以降の対応は分かれているようだ。本展は、休館を継続するのか、再開するのか、まだ発表されていない(5月11日午前10時現在)。

(※※)本展のHP
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