Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 中島裕康 箏リサイタル

2021年01月27日 | 音楽
 東京オペラシティのリサイタルシリーズ「B→C」に邦楽器(箏)の中島裕康(1988‐)が出演した。箏の奏者の出演は二人目だそうだ。

 1曲目は細川俊夫(1955‐)の「夜」(1982/99)。17絃のための曲。色彩を消し去ったモノトーンの曲で、バルトーク・ピチカートを思わせる打音が多用される。後半で声(ヴォカリーズだろうか)がかぶる。曲の前半のモノトーンの世界は、声の導入で生きてくるようだった。

 アタッカで2曲目の八橋検校(1614‐1685)の「六段の調」へ。対照的な世界への見事な転換だ。「六段の調」は13絃で演奏。17絃の低音の豊かさとはちがって、13絃は高音主体で繊細だ。「六段の調」は平調子(ひらぢょうし)で書かれている。その調弦法による印象のちがいも大きかった。

 3曲目はバッハ(1685‐1750)の「リュート組曲第4番」。東川愛氏のプログラムノートで気が付いたが、バッハの生年は八橋検校の没年と同じだ。そんな時代感覚になるのかと。「リュート組曲第4番」は「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番」が原曲。それをバッハがリュート用に編曲した。今回それを箏で演奏。同じ撥弦楽器といっても、リュートと箏では音質がちがう。当夜は17絃で演奏。第1曲「プレリュード」は音が波打つようなおもしろさがあったが、第2曲以降は音の密度の薄さが気になった。

 プログラム後半の4曲目は山本和智(1975‐)の17絃のための「浮遊への断章」。中島裕康の委嘱作品だ。作曲者自身のプログラムノートを引用すると、「この作品は全てをハーモニクスで演奏されるように作曲しました。最後に現れる歌もまたファルセット(裏声)でのみ歌われます。」。その音の世界は、(顕微鏡で微生物を見るような)微細な音の動きからなる。山本和智の作品は、2020年8月のサントリーホール・サマーフェスティバルで演奏された2台のマリンバとガムラン・アンサンブルとオーケストラのための「浮かびの二重螺旋木柱列」を聴いたことがあるが、そのパワフルな音楽とは正反対の曲だ。

 5曲目は権代敦彦(1965‐)の「十三段調~13 Steps~」。これも中島裕康の委嘱作品。稚拙な言い方になるが、音の上昇運動が権代敦彦の特徴のひとつだと思うが、この曲でもそれが現れる。一方ではスケール音型の頻出が気になった。

 6曲目は松村禎三(1929‐2007)の「幻想曲」(1980)。音の豊かなニュアンスに酔いしれた。平調子で書かれているせいか、古典のような風格が感じられる。松村禎三の名作のひとつだろう。演奏も堂に入っていた。
(2021.1.26.東京オペラシティ・リサイタルホール)

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