Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カンブルラン/読響

2023年12月06日 | 音楽
 カンブルラン指揮読響の定期演奏会。1曲目はヤナーチェクのバラード「ヴァイオリン弾きの子供」。レアな曲だ。そんな曲があったのかと思う。スヴァトブルク・チェフの詩に基づく曲という(澤谷夏樹氏のプログラムノーツによる)。チェフといえば、オペラ「ブロウチェク氏の旅行」の原作者だ。別人の手によるオペラ台本では、第2部の冒頭にチェフ自身が現れて詩を朗読する。印象的な場面だ。「ヴァイオリン弾きの子供」の作曲年は1912年。ちょうど「ブロクチェク氏の旅行」を作曲中のころだ。

 1912年はピアノ曲集「霧の中で」の作曲年でもある。「ヴァイオリン弾きの子供」は「霧の中で」に通じる抒情性がある。しんみりしていて、どこか儚げだ。カンブルラン指揮読響の演奏はその曲想をよく表現した。コンサートマスターの日下紗矢子のヴァイオリン独奏もその演奏にマッチしていた。

 2曲目はリゲティのピアノ協奏曲。ピアノ独奏はピエール=ロラン・エマール。今年はリゲティの生誕100年なので、予想外にリゲティの曲を聴く機会が多かった。その中でも当夜の演奏は真打登場の感があった。エマールのピアノも、カンブルランの指揮も、この超難曲を完璧に理解し、手の内に収めていた。どっしりと構え、緊迫感に満ちた演奏だった。

 エマールのアンコールがあった。リゲティの「ムジカ・リチェルカータ」から第7曲と第8曲。大サービスだ。あのピアノ協奏曲を弾いた後で、平気な顔をして「ムジカ・リチェルカータ」を2曲も弾くエマールに脱帽だ。

 休憩後の3曲目はヤナーチェクの序曲「嫉妬」。ヤナーチェクがオペラ「イェヌーファ」のために書いた曲だが、ボツになった。冒頭のティンパニの強打が衝撃的だ。たしかに「イェヌーファ」の中に渦巻く情念を要約したところがある。カンブルラン指揮読響の演奏も表出力十分だった。

 わたしはカンブルランがシュツットガルト歌劇場の音楽監督を務めていた2016年1月に同歌劇場で「イェヌーファ」を観た。そのときは数日間シュツットガルトに滞在して、毎日同歌劇場に通った。他の指揮者が振るときと比べて、カンブルランが振るとオーケストラの演奏が見違えるように引き締まった。「イェヌーファ」の演出はカリスト・ビエイトだった。当時脂の乗り切ったビエイトの演出と相俟って、すばらしい上演だった。

 4曲目はルトスワフスキの「管弦楽のための協奏曲」。リゲティのピアノ協奏曲に比べると緩さの感じられる演奏だったが、その代わり轟然と鳴った。終演後の拍手は盛大だった。カンブルランは読響の聴衆から愛されている。
(2023.12.5.サントリーホール)

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