Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

クララ・ハスキルのCD

2020年03月11日 | 音楽
 3月12日の読響の定期が中止になり、ヒンデミットの「主題と変奏『4つの気質』」が聴けなくなったので、CDで聴いてみようと思い、ナクソス・ミュージックライブラリーを覗くと、クララ・ハスキルのピアノ独奏、作曲者自身の指揮でバイエルン放送交響楽団とフランス国立管弦楽団の2種類のCDがあった――ということは3月7日のブログで書いた。

 それは2つの点で意外だった。一つはハスキルが同時代音楽のヒンデミットを演奏していることだ。ハスキルというとモーツァルトを中心にベートーヴェン、シューマンそしてスカルラッティ、バッハ、シューベルトなどが思い浮かび、同時代音楽のイメージはなかった。そのヒンデミットの演奏は、曲をしっかりつかんで揺らぎなく、ニュアンス豊かで、いつものハスキルがそこにいた。

 ハスキルは他にも同時代音楽を演奏していたのだろうか。HMVの「クララ・ハスキル・コレクション(23CD)」の商品説明を見ると、1945年11月にスイスのヴヴェイでニキタ・マガロフとバルトークの「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」を演奏したとあるので、それなりに演奏していたようだが、録音は残っていない。

 意外だったもう一つの点は、フランス国立管とのCDに併録されているモーツァルトのピアノ協奏曲第20番の演奏(オーケストラはヒンデミット指揮フランス国立管)が、耳に馴染んだマルケヴィチ指揮ラムルー管弦楽団との演奏とまるで違うことだ。

 マルケヴィチの指揮はアクセントが強く、緊張感がみなぎっているが、ヒンデミットの指揮は穏やかで古き良き時代のヨーロッパを思わせる。ハスキルの解釈は基本的には変わらないが、オーケストラの演奏が真逆なので、演奏全体の印象はかなり異なる。端的にいって、ヒンデミットとの演奏では、ハスキルは充足感に満ちている。ハスキルの本来の姿はヒンデミットとの演奏の方にあるのではないか――そんな疑問を持った。

 他のCDも聴いてみた。指揮者は、アンセルメ、クレンペラー、ミュンシュ、クリュイタンス、カラヤン等々、錚々たる顔ぶれだ。指揮者の聴き比べという意味でもおもしろかったが、ハスキルがもっとも安心して演奏しているのはアンセルメのようだった。

 アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団とのベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番の演奏(1960年8月31日、モントルーでのライブ録音)は、オーケストラとピアノがしっとりと噛み合い、聴いているこちらまで気持ちが落ち着く。同曲のマルケヴィチ指揮ラムルー管との演奏(1959年12月、スタジオ録音)とはだいぶ違う。
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