Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

藤岡幸夫/東京シティ・フィル

2022年05月13日 | 音楽
 藤岡幸夫指揮東京シティ・フィルの定期演奏会は、驚いたことに全席完売だった。ピアニストの角野隼人(すみの・はやと)の人気によるらしい。藤岡幸夫はプレトークで「(角野隼人が出演する)プログラム前半だけで帰らないでくださいよ」といって笑いを取った。

 そのプログラム前半は、まずラヴェルの組曲「マ・メール・ロワ」。丁寧にアンサンブルを整えた演奏だ。木管楽器のフレーズの受け渡しに細心の注意が払われ、また弦楽器の音色も美しかった。それでいて音がやせずに、親密な空間をつくりだした。

 次に角野隼人が登場してラヴェルの(両手のほうの)ピアノ協奏曲。わたしは角野隼人を聴くのは初めてだが(じつは情報に疎いので、名前も知らなかった)、その才能と個性に驚嘆した。鮮烈なリズム感をもち、音の粒立ちが良い。音楽の細かいところにドラマがある。常套的に流す部分が皆無だ。一言でいうと、おもしろくてたまらない。

 アンコールがまたおもしろかった。ガーシュウィンの「スワニー」だが、ノリが良く、スリリングなことこの上ない。満場の聴衆を惹きこむ快演だった。

 角野隼人は前述のように大変な人気者らしいが、舞台マナーは初々しい。どこかぎこちなさを残している。スター然とはしていない。それがまた若い人に受けるのかもしれない。プロフィールによると、「“Cateen(かてぃん)”名義で自ら作編曲および演奏した動画をYouTubeにて配信し、チャンネル登録者数は95万人超、総再生回数は1億回(2022年4月現在)を突破」とある。1995年生まれ。東京大学を卒業し、同大学院在学中にピティナピアノコンペティションの特級グランプリを受賞。それをきっかけに本格的な音楽活動を始めた。優秀な若手ピアニストが続出する中にあっても、角野隼人はとくに個性的な才能であることはまちがいないだろう。

 プログラム後半は黛敏郎の作品が2曲。まず黛敏郎が21歳のときの作品「シンフォニック・ムード」。2部からなる曲だが、その第1部が異様な演奏だった。変にクネクネして、どんな曲か、よくわからなかった。藤岡幸夫がプレトークで「許される範囲でテンポを遅くして、セクシーにやる」といったのはこの部分か。

 次は黛敏郎の代表作のひとつ「BUGAKU」。冒頭の笙のひびきの模倣から始まり、ひちりき、笛、鼓などの和楽器のひびきが次々に模倣される。目がまわる思いだ。同曲はニューヨークシティ・バレエの芸術監督ジョージ・バランシンの委嘱による。同曲を聴いたニューヨークの人々は仰天しただろう。そのインパクトはいまも健在だ。
(2022.5.12.東京オペラシティ)

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