Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 山澤慧チェロ・リサイタル

2020年02月19日 | 音楽
 東京オペラシティの「B→C」シリーズは、やる気満々の若手演奏家が意欲的なプログラムを組むので、いつも注目しているが、今回の山澤慧が組んだプログラムは、その中でも破格なものだった。

 そのプログラムはバッハの無伴奏チェロ組曲(全6曲)に若手作曲家への委嘱作品6曲を組み合わせたもの。具体的には6人の作曲家に第1番から第6番までのどれかの組曲の第1曲「プレリュード」を割り振り、それを念頭に置いた作品を作曲してもらい、演奏会ではその新作を演奏してから「プレリュード」に入るという趣向。委嘱新作は「プレ・プレリュード」の性格を持つ。そういう発想は、たとえばベートーヴェンの交響曲(全9曲)の前に演奏する曲を9人の作曲家に委嘱し、それを演奏してから交響曲に入るという例があったので、新奇なものではないだろうが、今回のように若手演奏家が実行するのは、やはり瞠目すべきことだと思う。

 6人の作曲家を紹介すると(長くなるので曲名は省くが)、演奏順に第1番の「プレリュード」の前に久保哲朗の新作、以下同様に、第3番の前に向井航、第5番の前に高橋宏治、ここで休憩が入り後半は、第2番の前に茂木宏文、第4番の前に平川加恵、第6番の前に坂東祐大。わたしにはどこかで名前を見かけたことのある作曲家もいるが、初めて名前を目にする作曲家もいた。

 で、どうだったか。一言でいうなら、おもしろかった。6人の作曲家のバッハへのアプローチが、いくつかのパターンに大別できそうだった。第一のパターンは、異音の音楽といったらいいか、チェロの胴を弓でこする、弦に異物(木製の洗濯バサミ?)をはさんで音を変形する(プリペアード・チェロ?)、特殊な弓で弾く――そんな異音の音楽で聴衆を仰天させた後に、バッハの音楽に入るという手法。久保哲朗、向井航、茂木宏文の3氏がこのパターンに入る。

 第二のパターンは、バッハの組曲が各種の舞曲からなるので、それに着目して「踊り」をテーマとする手法。高橋宏治、平川加恵がこのパターンに入る。そして第三のパターンは――というよりも、わたしには謎の音楽だったのは、坂東祐大の曲。説明はできないが、その不思議な音楽が今でも耳に残っている。

 バッハのほうは(演奏会の枠内に収めるために、当然抜粋だったが)、この若手演奏家の素直な音楽性と、なんといっても自然な呼吸感に印象づけられた。楽器もよく鳴っていた。なぜか第6番のジグは弾きにくそうにしているようだったが、あとは不安がなかった。わたしはたっぷり楽しめた。
(2020.2.18.東京オペラシティ リサイタルホール)

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