Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

大野和士/都響

2023年03月29日 | 音楽
 大野和士指揮都響のリゲティ&バルトーク・プログラム。1曲目はリゲティのピアノ練習曲集第1巻から第5曲「虹」をデンマークの作曲家・アブラハムセンが室内オーケストラ用に編曲したもの。チェレスタ、ハープ、ヴィブラフォンその他の打楽器の透明な音が美しいが、あっという間に終わる。

 アブラハムセンは2020年2月にパーヴォ・ヤルヴィ指揮N響でホルン協奏曲が演奏されたので、その名を記憶している。ホルン独奏はベルリン・フィルのシュテファン・ドールだった。ホルン協奏曲は1月にパーヴォ・ヤルヴィ指揮ベルリン・フィル、シュテファン・ドールの独奏で世界初演されたばかりだった。ほぼリアルタイムで日本でも演奏されることに興奮した。

 2曲目はリゲティのヴァイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏はコパチンスカヤ。これはもうコパチンスカヤの独壇場だった。全5楽章からなり、どこをとっても精密なリズムと音程からできているが、曲全体はたとえばピアノ協奏曲のように極限的な複雑さを思わせるものではなく、どこか空虚で、白々として、あえていえば拍子抜けする音だ。反ロマン的であることはまちがいない。

 第2楽章と第4楽章では、木管楽器奏者がオカリナを吹く。西洋楽器とは異なるオカリナのヒューヒューいう音がこの曲の音響の象徴だ。第5楽章の最後にカデンツァが入る。そのカデンツァには独奏者の声が入り、足踏みが入る。そこにオーケストラがヤジと足踏みで乱入する。アッと驚く間に、聴衆がヤジを飛ばして参入する。わたしはその展開に声も出なかった。ヤジを飛ばした聴衆は敏感だ。

 コパチンスカヤのアンコールがあった。コンサートマスターの四方恭子を引っ張り出して、二人でヴァイオリン二重奏曲を演奏した。途中で「さくら、さくら」のようなフレーズが出てきたので、ハッとした。曲はリゲティの「バラードとダンス」(2つのヴァイオリン編)だそうだ。「さくら、さくら」の挿入はアドリブだろう。

 3曲目はバルトークの「中国の不思議な役人」(全曲版)。反合理主義の世界がやっぱりおもしろい。全曲版なので、後半に合唱が入る。その効果が抜群だ。オペラ「青ひげ公の城」で効果を発揮した合唱を「中国の不思議な役人」では前面に出して使った感がある。

 4曲目はリゲティの「マカーブルの秘密」。びっくり仰天の衣装とメークのコパチンスカヤの圧倒的なパフォーマンスだ。ただ、本来はハイ・コロラトゥーラソプラノのための曲なので、かなり自由に演奏していたのかもしれない。コパチンスカヤ版というべきか。
(2023.3.28.サントリーホール)

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