Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

尾高忠明/N響

2021年02月08日 | 音楽
 パーヴォ・ヤルヴィが振る予定だったN響の2月のA定期だが、指揮者が尾高忠明に変わり、プログラムがガラッと変わった。1曲目は武満徹の「3つの映画音楽」。武満徹の最晩年の作品だ。過去に作曲した映画音楽から3曲を選び、弦楽合奏用に編曲したもの。スイスの高級リゾート地グシュタードで開かれたシネマミュージック・フェスティバルのテーマ作曲家になり、その訪問のために書いた曲。武満徹は翌年亡くなった。

 第1曲は映画「ホゼー・トレス」のための音楽、第2曲は映画「黒い雨」のための音楽、第3曲は映画「他人の顔」のための音楽。今回久しぶりに聴いたが、第2曲がことのほか感銘深かった。よくいわれるように、第2曲は「弦楽のためのレクイエム」にそっくりだ。茫漠と広がる拍節感の希薄な音楽。その音楽の的確な演奏だった。外国人の指揮者だったらこうはいかない。もっと拍節感が強くでる。日本人に特有の拍節感(の希薄さ)だと思う。なお映画「黒い雨」は1989年の作品。「弦楽のためのレクイエム」は1957年の作品なので、30年あまりの歳月を隔てて、最晩年になって、もう一度キャリアのスタート時点に戻ったとすると、それはどういうことだったのだろう。

 ついでながら、第1曲は物憂いブルース風のリズムをもち、第3曲は冷たい短調のワルツになっているが、今回の演奏ではそのリズムと曲想がていねいに捉えられていた。

 2曲目はショスタコーヴィチのチェロ協奏曲第1番。チェロ独奏は横坂源。そのチェロ独奏は渾身のものだったが、3階席のわたしには音が届いてこなかった。端的にいって、視覚的な印象とは裏腹に、おとなしい演奏のように感じられた。

 アンコールにバッハの無伴奏チェロ組曲第2番のサラバンドが弾かれたが、深々と豊かに鳴るチェロの音にもかかわらず、なぜかバッハのようには聴こえなかった。もっと平坦な横に流れる音楽のように聴こえた。

 なおショスタコーヴィチのその協奏曲では(ちょうどピアノ協奏曲第1番でのトランペットのように)ホルンが大活躍するが、ホルンを吹いた福川さんはもちろんのこと、オーケストラ全体も引き締まった筋肉質のショスタコーヴィチらしい音をだしていた。

 3曲目はシベリウスの交響曲第1番。1曲目と2曲目では自己抑制的だった尾高忠明が、精一杯自己を解放しようとしているようだった。オーケストラもよく鳴った。だが強音にシャープさが欠け、先の丸い鉛筆のような音に感じられた。第4楽章の序奏、主部に入ってからの第2主題、そしてフィナーレの同主題を演奏する弦楽器(14型)が広々と鳴りわたり、N響の弦セクションの威力を示した。
(2021.2.7.NHKホール)

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