平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

乙一 「GOTH」

2006年01月01日 | 短編小説
 乙一の「GOTH」は新しい探偵像を提出した。

 「GOTH」は「僕」と「森野夜」という同級生が関わった犯罪事件を描いた短編集だが、その中の「暗黒系」は次のような事件だ。

 女性を対象にした連続殺人事件が起きた。
 犯人の犯行手口は残虐で、作品中、次の様に表記されている。
「彼女の体は森の奥で何者かに解剖された。眼球、舌、耳、親指、肝臓……。それらは木の幹に釘で固定されていた」

 僕と森野は、森野が喫茶店で犯人のものと思われる手帳を拾ったことから事件に巻き込まれていく。手帳には、犯人が被害者を解剖していく様が克明に描かれていたからだ。

 さて、ここで今日の本題だが、この作品の斬新な所は「探偵役の僕が犯人と同じ嗜好を持っていること」だ。
 僕は犯罪こそ犯していないが、犯人と同じ嗜好を持ち、犯罪を楽しんでいる。過去の名探偵は犯人の作り出したトリックを暴くことにパズルを解くような楽しさを見出していたが、犯罪は憎んでいた。唯一、違うのは「羊たちの沈黙」のハンニバル・レクターだが、「羊たち」でもFBI捜査官が彼の推理を聞いて捜査するというフィルターがかかっていた。
 この作品の僕は、犯人と同じ嗜好を持つが故に、犯人の思考・行動を理解し犯人に迫っていく。
 その思考の描写はこうだ。
 「犯人は何を思うのだろう」
 「僕は犯人について想像をめぐらせた」
 「そこで犯人は考えたはずだ」
 「そう考えた場合、僕ならどうするだろうか」
 「僕が犯人だとして、四人目を殺すのはどんな時だろう」

 そして、さらに面白いのは、「僕」の「森野」に対する想いだ。(以下、ネタバレ)

 この「暗黒系」という短編で、森野は犯人に捕らえられ行方不明になってしまう。僕は森野を見つめけるために犯人の思考と同化したどっていくが、僕が犯人を推理する理由は森野を助けたいからではない。
 その理由はこうだ。

「もし、すでに殺害しているならば、森野の死体をどの辺りに捨てたのか聞き出す必要がある。なぜならそれを見てみたいからだ」

 こうした僕の森野への屈折した愛は、「GOTH」の他の短編にも描かれている。
 いずれにしても「GOTH」はその題材と「僕」という新しい探偵像を提出して、特異な推理小説となった。

★研究ポイント
 名探偵の条件
 犯人の思考・嗜好と同化する。
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プライド男祭り

2006年01月01日 | スポーツ
 大晦日の「プライド男祭り」、小川直也対吉田秀彦戦。
 小川は吉田に足首を折られて敗退。
 試合後のコメントは「不甲斐ない俺だけど、また立ち上がる」とコメント。
 自らの生き様である「ハッスル!ハッスル!」も忘れなかった。

 かたや「K-1ダイナマイト」、曙対ボビー・オロゴン戦。
 曙は前に出ず、積極的な戦いもせず、判定負け。

 観客がいるプロスポーツで何を表現するかは重要な要素。
 負けたが、前に出て懸命に闘った小川と守って判定負けをした曙。
 どちらが観ている者に訴えたかは歴然。
 「不甲斐ない俺だけど、また立ち上がる」というコメントは、観ている者に力と勇気を与える。

★研究ポイント
 スポーツエンタテインメントとは何か?プロスポーツとは何か?

★追記
 小川は柔道で頂点を極め、オリンピックにも出場した選手。(銀メダルだったけど)
 曙は64代横綱。
 このふたりの違いはプライドを捨てられたかどうかということ。
 プライドを捨てた小川は「ハッスル!ハッスル!」と叫び、曙は「64代横綱」を引きずって何も語らない。

 曙よ、馬鹿になれ!
コメント (3)
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