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平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

江戸川乱歩 「人間椅子」

2006年01月05日 | 短編小説
 江戸川乱歩の「人間椅子」は今読んでも全然古さを感じない。

 椅子の中の男はこんな男だ。

「私は考えました。この椅子の中の世界こそ、私に与えられた、ほんとうのすみかではないかと。私のような醜い、そして気の弱い男は、明るい光明の世界では、いつもひけ目を感じながら、恥ずかしい、みじめな生活を続けていくほかに、能のない身でございます。それがひとたび、住む世界をかえて、こうして椅子の中で、窮屈な辛抱をしてさえすれば、明るい世界では、口を利くことはもちろん、そばへよることさえ許されなかった、美しい人に接近して、その声を聞き、肌に触れることもできるのでございます」

 自分の生きてる現実の世界への違和感。
 人間嫌い。
 逃避。安住の世界。
 透明人間願望。

 だが、主人公はそれだけでは満足できなくなってくる。

「私は、できるならば、夫人のほうでも、椅子の中の私を意識してほしかったのでございます。そして、虫のいい話ですが、私も愛してもらいたく思ったのでございます」

 主人公はひとりの世界に満足できず、他人の愛を求める様になるのだ。
 まさに今の時代の犯人像である。

 主人公からの告白の手紙を読んで、目の前の椅子に恐怖する夫人。
 そしてラストのオチ。
 見事な好短編である。

★研究ポイント
 「人間椅子」というありえないファンタジーの中にある犯人のリアリティ。

 松本清張「張り込み」の生活に疲れた女。
  〃  「凶器」  の嫌悪する男に言い寄られて困っていた女
 も犯人像としてはあり得るのだろうけれど、こちらの方が今のリアリティがある。
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古畑任三郎 「フェアな殺人者」

2006年01月05日 | 推理・サスペンスドラマ
 イチローが出演OKになった時、きっと番組プロデューサーは数字が取れると思っただろう。
 SMAP・明石家さんまなど、これまでも夢の共演をしてきた同番組だが、これほどの夢の共演はない。

 この作品の事件・トリックは「イチロー」という素材(失礼!)からすべて作られている。

 1.目がいい……従業員通用口の暗証番号を遠くから読み取る。
 2.足が速い……閉まろうとする従業員通用口の自動ドアに駆け込む足の速さ。
 3.肩がいい……証拠となるサインボールを高い通気口に投げる。

 そして
 4.フェア精神の持ち主であること……ワンサイドゲームにならないためにわざと証拠の品を残しておくこと。
 5.優れた好敵手とゲームをしたいと思っていること。

 5番目の優れた好敵手という点で、古畑は申し分なかった。
 何しろ、イチローがわざと残した証拠品・ホテルの部屋のマッチだけでイチローの所までたどり着いたのだから。
  ・濡れたホテルのマッチ。
  ・部屋に加湿器を入れている客。

 状況証拠は犯人がイチローであることを物語っているのだが、決め手がない。
 そこで古畑が考えたことはイチローの「平常心」をなくして、犯人しか知らない事柄を話させること。

 すべてイチローというキャスティングから作られたドラマだ。

 「イチローは嘘が嫌いで、事件のことに関しても嘘を言わない」というキャラクター設定から、イチローは事件のことを隠さずにしゃべっていく。
 「事件のことを正直に話す犯人」
 ともすると推理ドラマ自体が崩壊する展開だが、そうならない一線でうまく描いている。

★研究ポイント
 夢の共演はワクワクさせる。
 始めにキャスティングありきのドラマづくり。

★追記
 それにしてもイチローの演技はなかなかうまい。
コメント (1)
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