「恋愛は少女マンガで教わった」(横森理香・著 集英社文庫)は少女マンガに秘められた女性の願望・本音が書かれていて面白い。
例えば、
1,男から献身されつつ奪われたい。
高校生だった著者は少女マンガの次の様なシーンに「部屋中を飛びまわってしまうくらいのウレシ恥ずかしさを感じてしまったという。
・気絶したときに飲ませる水の口移し(「はいからさんが通る」も紅緒と少尉)
・大雨に降られて体を温め合うために”仕方なく”抱き合う。(「エースをねらえ!」のひろみと藤堂)
著者いわく 「スキンシップ不毛地帯、ニッポン。みな人肌の温かさを求めながら、日本人はお互いの体に触ることができない」
2.「未完の大器」の少女を大人の男が見つけ心血を注いで育て上げ、やがて女としても磨かれたい。
例えば、「エースをねらえ!」の宗方コーチ、「ガラスの仮面」の紫のバラの人(速水社長)、「アラベスク」のユーリ先生。
著者は補足する。
「自分は何の意志も持たず、相手に身を委ねる。その男には完全な信頼を寄せ、そこには肉体関係を要求されないという保証付きの”師弟愛”という名のプラトニックラブが存在する」
3.ふたりの男から愛されたい。
あるいは出て来る人出て来る人、老若男女、ぜーんぶがヒロインに首ったけ。
例えば、「エースをねらえ!」のひろみ。
「藤堂さんと宗方コーチに愛され、千葉さんは写真でひろみを追い続ける。それだけじゃなくてコーチが死んでからもコーチにそっくりな神谷裕介が現れて、ひろみをコーチし、恋愛感情まで引き継いでしまう」
例えば、「ガラスの仮面」のマヤ。
彼女は桜小路君と速水社長にずーっと愛され続ける。
著者はさらにヒロインのライバルたちにも言及する。
「おもしろいことに、少女マンガにはヒロインより美人でお嬢さんで、人間的にも素晴らしい女が必ず出てきて、ヒロインのライバルになり、やがては味方となってしまうのだ。それどころか友情の域を超えた深い愛でヒロインをサポート、生涯を包み込む存在となっていく。そんで、そういうすんばらしい女が、主人公のおこぼれみたいな男を最後に貰い受けることになっているのである」
言うまでもなく主人公のライバルは「エースをねらえ!」の場合は、お蝶夫人。
主人公のおこぼれみたいな男は尾崎さんらしい。
「ガラスの仮面」でも亜弓さんはマヤに「恋愛感情に似た異様な執着」があり、「華やかな様でいてすごいブーな劇団員・間進とウソッこの恋」をしている。
この「ふたりの男から愛されたい」という願望は「生徒諸君!」にもある様だ。
「ナッキーだって、最初は飛島先輩をマールに取られて、つらい、苦しい、寂しいなんてやってたけど、実はみーんなナッキーのことが好きで、そのうち沖田と岩崎ふたりに愛され、ふたりを愛するように」なる。
少女マンガは少女の夢と願望を満たしてくれる究極のエンタテインメントなのだ。
★研究ポイント
これら少女マンガにある願望を現代に焼き直して表現すれば、ヒット作が生まれる。
★追記
著者はこれら少女マンガで描かれていることは、幻想であることも書いていて面白い。
「中学時代、「エースをねらえ!」に憧れて、テニス部に入ったものの、一年生はスコートはかせてもらえず、カッコ悪いジャージで炎天下、球拾いをさせられる。そこにはお蝶夫人も藤堂さんも宗方コーチもいず、あるのはつらくて苦しい基礎体力作りと球拾いだけだ。そして……。待てど暮らせど「大抜擢」はやって来ない」。