平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

ALWAYS 三丁目の夕日

2006年03月15日 | 邦画
 舞台となる1960年代はこんな時代だった。

★町の人間の顔と名前が一致している時代。
 淳之介(須賀健太)がやって来て「お前誰だ?」と言われる。
★町で誰が何をやっているか分かっている時代。
 茶川龍之介(吉岡秀隆)はブンガクを志し、駄菓子屋をしている。みんなからは「ブンガク」と言われている。たばこ屋のおばちゃんはたばこ屋。医者の宅間先生(三浦友和)は戦災で妻と子供を亡くしていたことをみんなが知っている。
★他人の子を預かれる時代。
 鈴木オートの社長・鈴木則文(堤真一)は、青森から集団就職で預かってきた星野六子(堀北真希)を預かる。茶川は淳之介を預かる。
★互いに怒れる、互いを許せる時代。
 鈴木オートの社長は自動車修理の出来ない六子を怒る。
 六子は六子で「自動車会社に就職したつもろなのに詐欺だ」と言って怒る。
 履歴書を見直して「自転車修理」を「自動車修理」と読み違えていたことが分かって社長は六子に謝る。
 六子も言い過ぎたと謝る。
 社長も「どんどん大きくして、世界一の自動車会社にしてみせる」と卒業したばかりの六子に話す。
★物事が共有される時代。
 テレビを町中で見る。健太の書いた娯楽小説を子供達はまわし読みする。
★物のない時代。
 六子はシュークリームを食べたことがない。だから、腐ったシュークリームを食べて食中毒を起こす。
 淳之介は万年筆がほしい。クリスマスにもらって大喜びする。

 現在と正反対のこんな時代を描いて、この作品は多くの人を魅了した。
 日本アカデミー賞を受賞した。
 私も吉岡秀隆の髪型がマンガチックだし、単なるノスタルジー物として思っていたから逆に打ちのめされた。


 これらの生活を描いて人を魅了したのは「人の間にあることの幸せ、人のために何かをすることの幸せ」である。

 茶川はブンガクを目差している個人的な男だ。
 だが、飲み屋の女石崎ヒロミ(小雪)に頼まれて、母親のいなくなった淳之介を預かる。
 茶川は自分の創作の邪魔になると思って淳之介を返しに行くが、淳之介が自分が生活のために書いている少年向け冒険小説の愛読者だと知って嬉しくなる。目を輝かせて自分の冒険小説を読む淳之介、何度も読んだであろうボロボロになった自分の小説の載った雑誌を淳之介が持っているのを見て嬉しくなる。
 自分の作品が認められたのだ。
 自分の作品が誰かの生きる糧になったのだ。
 それは芥川賞ではなかったし、100万人の読者ではなかったが、茶川にとっては嬉しいことであった。
 この小さな読者がいるだけで、自分の存在意義を感じる。
 淳之介の存在は、ヒロミも惹きつけた。ライスカレーを作りに来る。

 淳之介はお金持ちの父親に引き取られ、ヒロミはストリップ小屋に戻るが、ひとり家に帰った茶川は、淳之介の描いた「茶川と淳之介、ヒロミの絵」を見る。
 茶川は「前の生活に戻っただけだ」とポツリと言うが、絵に描かれていた生活は輝いていた。

 同じ様な描写に医者の宅間のエピソードがある。
 酔って焼き鳥を家に持って帰る宅間。
 妻と娘とで「おいしい」と言って食べる。
 でも、それは夢だった。家に帰っても誰もいない。戦災で死んでしまったからだ。

 また、この作品では「母親」が描かれる。
 青森から出てきた六子はお盆にも正月にも田舎に帰りたがらない。
 六子は思っている。「人減らし。自分がいなくなって両親は喜んでいる」
 だが、鈴木オートの奥さん・トモエ(薬師丸ひろ子)は言う。
 「子供に会いたくない母親なんかいない」
 そう言って、六子の母親から「娘の近況を聞き、娘をよろしく頼みます」と書かれた手紙を六子に見せる。

 息子の一平が淳之介の母親に会いに行って、お金がなくなった時も、トモエは助ける。息子はつぎはぎのセーターを嫌がるが、「中には御守りが入っているから困った時は開けなさい」と言う。果たして、つぎはぎの中には手紙とお金が入っている。「困った時はこれを使いなさい」。これで電車に乗って帰ることができた。

 最後にもうひとつ、この作品が魅了したテーマは「物ではなく心だ」というテーマだ。
 茶川は飲み屋の女にプロポーズするが、箱だけで指輪はない。お金がないからだ。「いつかは買ってはめるから」と言って、箱を渡す茶川。
 女は「はめて」「本当にきれい」と言って、何もない自分の指を見る。

 淳之介は金持ちの父親に引き取られるが戻ってくる。
 茶川は言う。
 「父親といっしょにいれば何でも買ってもらえるんだぞ。いいのか?」

 これらすべては現代へのアンチテーゼ。
 こうして言葉で書いてしまうと垢にまみれた言葉だが、この作品では素直に見せられてしまう。
 これがエンタテインメントの力だ。

★研究ポイント
 テーマ
 作品テーマ
 エンタテインメントの力

★追記
 CGと言えば、未来を描く物というイメージがあるが、過去を描くという使い方もある。
 建設されていく東京タワーはこの作品の象徴だった。
コメント
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