平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

インストール

2006年03月29日 | コミック・アニメ・特撮
 「インストール」樋川朝子はこんな17歳。

 「ここ数日のワタシ、朝起きて学校行って予備校行って、風呂入って寝る。以上。残っているもの 眠気」

 日常に流されて自分でいられない。若いエネルギーを持てあましている。
 自分は特別な存在だと思いたいが、特別な自分とは何かがわからない。
 エネルギーと思いの空まわり。
 かと言って特別な自分を見出すためにこれといった努力をしているわけではない。

 こんな思いが積もり積もって「5月某日 受験勉強から脱落」
 見た夢~「何者かに追われているんだけど、足がもつれてなんでこううまくいかないのかと思う夢」

 疲れ果てて学校をさぼりごみ置き場の地面の上にごろんと横になる。
 そして思う。
 「まるでゴミだ。こんなふうにちょっと奇妙な行動をしてみせるのが表現できる唯一の個性。近い将来この時間をむだだったと悩むんだろうな」
 「お酒も飲めない。車も乗れない。ついでにセックスも体験していない処女の17歳の、この何者にもなれないという枯れた悟りはなんなんだろう」
 「中学生くらいまではまだ漠然となににでもなれると思っていた。でも、高校生になって大学受験が視野に入った途端、先が見えてきてしまって、このまま小さくまとまった人生を送るのだと思うと……」
 「ごみと同化してる場合じゃない。今するべきなのは前進。わかっているのにできない」

 こんな朝子は自分をリセットしたくて、部屋にあるものを全部捨てる。
 ひとつ捨てるのに悩むのは、祖父が買ってくれたパソコン。
 孫とメール交換したくて祖父が買ってくれた品物。
 結局接続ができなくて使わず仕舞い。そして祖父は亡くなった。

 朝子はこのパソコンを通じて風俗チャットの世界に入っていく。
 そして自分を見出していく。

 「インストール」は物の溢れた、刺激・職業の選択肢がいくつもある現代に生きる若者の苦悩・現実がストレートに描かれている。

 自分が何者であるか見出せない苦悩。
 ありあまるエネルギーを持てあましている苦悩。
 自分は特別な存在であると思いたいが、それを否定してくる現実の苦悩。

 物は溢れているが心を通わせる物はほとんどないという現実。(朝子の場合はかろうして祖父の買ってくれたパソコン)
 刺激あふれる現実はテレビ・雑誌にあふれているが、実は享受できていないという現実。あるいは享受するために一歩踏み出せない現実。
 職業の選択肢はいくつもあるかの様だが、あこがれの職業は狭き門だという現実。あこがれの職業につくためには必死の努力をしなければならないという現実。大企業?官僚?政治家?自分の生涯をかけられる職業などないという現実。 

 こうした苦悩を抱えたキャラクターと現実を描くことによって、現代のエンタテインメントが描ける。
 あるいは反対のキャラクターを描くことによって現代のエンタテインメントが描ける。

★研究ポイント
 キャラクターの作り方
 キャラクター造型

 何者でもないキャラクター朝子と女優になるためにひたむきな「ガラスの仮面」北島マヤとの比較。
 何者でもないキャラクター朝子と壊れまくった天才「のだめカンタービレ」の野田恵との比較。

 上記の抜粋はコミック版「インストール」(綿矢りさ・原作 みづき水脈・作画)より。 
コメント
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