平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

バレーボール ワールドカップ2003

2006年03月24日 | スポーツ
「甦る 全日本バレー~新たな闘い~」(吉井妙子・著 日本経済新聞社)を読んだ。

 2003年ワールドカップバレーを取材したものである。
 低迷していた日本バレーに柳本昌一が就任した。
 そのチーム作りはまず日本バレーボール協会との闘いであった。

 まずは主将の吉原知子。
 柳本は吉原中心のチームを作ろうとした。
 吉原はバルセロナ、アトランタ五輪に出場し、日立、セリエA(イタリア1部リーグ)などで濃密な競技人生を送ってきた。
 しかし、その経験から培ってきた独自のバレースタイル・理論を持っていたため歴代の監督達からは使いにくいというレッテルを貼られ、7年間ナショナルチームから外されてきた。
 そして33歳という年齢。
 若手起用という協会の方針とは大きく違っている。

 次にセッターに起用したのが竹下佳江だった。
 身長は159センチ。
 卓越した運動神経を買われていたがやはり身長の件が問題にされ、バレーから離れてていた。
 本人が完璧主義者であることに疲れ果てていたせいもあったという。

 そして高橋みゆき。
 身長は170センチと高くはないが、サーブ、レシーブ、センターを絡めた移動攻撃、ブロックアウトを取る技術、空中での判断力などに卓越した能力を持ち、外国人選手からは「最も嫌な日本人選手」と怖れられていた。しかし、最下位に沈んだ02年の世界選手権で主将をしていたため関係者の評価は失墜していた。

 こんなバレー界の主流から外れてしまった3人を柳本は抜擢した。
 バレー関係者は彼女らの本当の実力を見抜けず、年齢、身長。性格といった選手の本質とはかけ離れた部分で判断を下していたのだが、柳本はそれと対決したのである。
 会議ではこんな会話が飛びかったという。
「まさか高橋を使おうなんて思っちゃいないだろうね。確かに得点力は高いしレシーブやサーブでは1位だけど、全日本のメンバーに選ぶには背が低すぎる」
「竹下はだめだよ。セッターとしてはうないかもしれないけど、身長が低いのはどうしようもない」

 しかし、柳本は突っぱねた。
 吉原、竹下、高橋の3本の矢が組み合わされば、大山加奈、栗原恵の19歳コンビも実践で使えるという読みもあった。
 大山は筋肉質の身体をボールに乗せパワーで打ち込むバズーカ砲。
 栗原はエッジの利いた動きで宙を切り裂く機関銃。
 タイプは違うがその威力は十分で、彼女たちの荒削りな部分は高橋たちがカバーしてくれると柳本は読んだのだ。

 そして、ワールドカップバレー、初戦アルゼンチン戦。
 開幕戦で大山、栗原を使おうとした柳本を協会は反対した。
 協会は「若手を育ててくれ」と柳本に要請したが、いきなり彼女たちを使っても勝てないと判断したのだ。
 しかし、柳本は突っぱねる。
「試合に出て勝つことで若手は急速に伸びるんです。もちろんアルゼンチンには勝てると思っていた」

 柳本の抜擢もこの様に型破りだったが、試合の内容も従来と違うものだった。
 竹下はプレイが不確実な選手や自信のない選手にはトスアップしなかったのだが、ミスをしても大山や栗原にトスを上げた。4ヶ月前から練習を始めたという大山のバックアタックも何度も打たせた。
 そして修羅場をくぐり抜けて来た吉原は「夜叉のような形相で」敵選手を睨みつけ、自軍には「大丈夫だから大丈夫だから」と「慈母の様な笑み」を向けた。
 高橋も自分を前に出すことなく、栗原や大山のミスをカバーしようとリベロの佐野と共にレシーブを拾いまくった。
 また、ひ弱だった杉山祥子もネット際を走り回り、ブロックをしクイックを決めた。

 そして韓国戦。
 全日本は新しいチームカラーを出して打ち勝った。
 センターに吉原と杉山、セッター竹下、ライト高橋、リベロ佐野、レフト大山と栗原。
 高さとパワー、そして機動力を駆使した攻撃バレーを展開したのである。
 それまでの日本は、韓国と同じ拾って繋ぐバレーであった。そんなバレーを攻撃力が粉砕した。
 韓国はよく拾い、栗原らは自分たちの攻撃バレーは通用しないのかと思ったが、吉原が声をかける。
「私たちがやって来たことを信じよう」
 そして佐々木みきの投入。
 佐々木は日本一のパワーアタッカーであったが、その人見知りの性格からこれまでの全日本の空気に馴染まず、ウェイトトレーニングを重視する佐々木と練習方針が合わず、溝を深めていったのである。
 そんな彼女が爆発した。
 佐々木の攻撃はボディブローの様に利いてくる。
 韓国のミスは11、日本のミスは28であったが、それを攻撃力が上回った。
 柳本の描いた攻撃バレーが花開いた試合であった。

 こうしたチームを作る中で柳本は選手の精神力も育てていった。
 韓国戦の後、高橋らはこんな感想をもらしたそうである。
「もっと早く仕留められた」
 精神力が強くなり、フルセットになれば必ずセットを取られていたチームが粘り取れる様になった。
「ピンチになればなるほど力を発揮するチーム」に生まれ変わったのである。

 そしてワールドカップバレーは高視聴率を取って日本中の話題をさらった。
 1ヶ月にわたってゴールデンタイプを使うことはフジテレビにとっては冒険であった。しかし、数字を取った。
 フジテレビのプロデューサー川口哲生は言う。
「選手達の戦う姿と諦めない精神が視聴者を惹きつけたんだと思います。選手達が星なら僕等はその周りの土星の輪の様なもの。選手達がどんな輝きを見せるかわからなかったので、せめて舞台だけでも豪華にと思え、いろんな仕掛けをしてきましたけど、星が輝き始めたら土星の輪は霞んでもいいと思っています」

★研究ポイント
 ドラマ
 物語の作り方
 対立を乗り越えて勝利する。
 個人が自分の力を発揮する。
 荒削りと洗練。
 チームワーク。
 監督との信頼関係。
 勝ちたいという気迫。
コメント
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