平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

指輪物語

2006年06月29日 | 小説
「指輪物語」(THE LORD OF THE RING)

 壮大な物語というのは、この作品のことを言う。
 世界設定は緻密で、キャラクターは強さと弱さを併せ持ったキャラクターたちだ。灰色の魔法使いガンダルフ、人間の国ゴンドールの王の血をひくアラゴルン、エルフで弓の使い手のレゴラス、主人公を最後まで守ると誓う庭師のホビットのサム、悪に囚われた白い魔法使いサルーマン。
 この小説を30回以上読み返して、あとは何回読み返したか忘れてしまった人がいるほど面白い。「スターウォーズ」とか、後の作品にも与えた影響も大きい作品だ。

   1
 指輪の持ち主は善の心を失い、権力への執着心を持つ。
 人を殺すことも厭わなくなる。
 「指輪物語」はこの邪悪な指輪を捨てにいく話だ。
 この辺がアイテム探しの他のファンタジーと大きく異なる。作品の読み方は人それぞれでいいのであって解釈をくわえることは作品の魅力を損なうと作者のトールキン自体が戒めているのだけれど、核問題に興味を持っている人が読めば、指輪は<核兵器>に見える。核兵器という力を持ったら人はやはり狂わされる。自分を絶対と思い、この強大な力を使いたくなるというわけだ。
 主人公のフロドはホビットという小人族で善の心を持った青年だ。
 武器をふるう力や強大な魔法を持たないが、強い心がある。指輪を滅びの山の噴火口に捨て行くことに関する会議が行われた時、人間、エルフ、ドワーフといった者は指輪の力に惑わされてケンカ口論を始めるが、フロドだけが惑わされない。
 フロドはそんな青年だ。彼だけが指輪の誘惑に惑わされないで、捨てにいくことが出来る選ばれた青年なのだ。
 しかし、旅の終わりにさしかかり噴火口に指輪を投げようとする時、フロドは………。

   2
 この物語はふたつのプロットから成り立っている。
 ひとつはフロドが指輪を捨てに行く旅の記録。
 邪悪な指輪に引き寄せられるように追ってくる邪悪な者たちに読者はドキドキする。
 もうひとつは人間とエルフの連合軍と邪悪なる者たちの激しい戦争。
 ここには勇猛な将軍たちや権力争いの政治が描かれる。
 そんな壮大なドラマを楽しむのもいいが、少し足を止めて作者が描いている美しい風景描写や詩を楽しんでみるのもいい。
 世界のバックボーンにある神話の世界や舞台となる中つ国の歴史を読みとってみるのもいい。
 朝食を2回、昼食とおやつ、夕飯と夜食と計6回食事をとるゆったりしたホビットの生活にあこがれるのもいい。
 読むたびにいろいろな発見があって好きになる、そんな作品が「指輪物語」だ。

   3
 作者トールキンが「指輪物語」を書き始めた理由。
 作者j.R.R.トールキンは英国オクスフォード大学の言語学の教授だ。
 「指輪物語」を書き始めた理由というのが変わっている。エルフの言語を発明し体系立てたいという言語学的欲求からなのだ。いわゆる「言葉あそび」である。
トールキンが勤めたオクスフォードの同僚には、ファンタジーの名作「ナルニア国物語」を書いたC.S.ルイスがいる。彼らは毎週木曜日の夕食後にルイスの家に集まって、大好きなファンタジーについて語り合うサークルを作った。そこで毎週少しずつ朗読されていったのが「指輪物語」である。パイプをくゆらせ書斎でお茶を飲みながら、冒険談を語るトールキンの姿が思い浮かぶ様だが、実に英国的だ。
 「指輪物語」はトールキンが44歳の時に書き始められた。暇を見つけて執筆され、完結したのは13年間後の1949年。
 時間に追われせかせかと忙しい現代人に比べて何とも優雅。こんなトールキンのスタイルを考えながら読んでみると、「指輪物語」は別の顔を見せてくれる。

J.R.R.トールキン著 瀬田貞二訳 全6巻
「旅の仲間」上下、「二つの塔」上下、「王の帰還」上下(評論社)

※以前書いた雑誌記事より抜粋・引用。
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