平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

博士の愛した数式

2006年06月08日 | 邦画
 博士(寺尾聰)は数字によって、人を理解する数学者。
 やって来た家政婦
 彼女(深津絵里)の靴のサイズは24。
「実に潔い数字だ」
 家政婦の誕生日は2月20日。
 昔、博士が学長賞を取って記念にもらった時計の番号は284。
 220と284は友愛数。
 だから博士と家政婦は滅多にないめぐり会わせで出会った存在。

 そんな博士は80分で記憶をなくしてしまう。
 博士は、家政婦に一本の線を書かせる。
 端と端のある1本の直線。
 しかし、博士は直線は無限に続いているものだと説明する。
 これは博士と家政婦、そして家政婦の息子ルート(齋藤隆成)の関係を示す象徴的な話。
 端と端のある1本の直線は80分で消えてしまう博士の記憶。
 しかし、無限に続く直線は博士と家政婦、息子ルートの物語。
 博士の記憶は80分でなくなってしまうが、彼らの関係は、無限に伸びる直線のように永遠なのだ。
 現に大人になったルート(吉岡秀隆)は数学の教師になり、生徒たちに博士との物語を語っている。
 ルートの中には博士の記憶が永遠にあるのだ。

 そして博士の義姉・未亡人(浅丘ルリ子)との関係。 
 博士は、オイラーの公式……e(πi)=-1 の数式を使って自分の意思を伝える。
  eとは博士のこと。
 (πi)とは家政婦とルートのこと。
  ー1は母屋で3人の楽しそうな暮らしを眺める未亡人のこと。
 
 博士はe(πi)=-1をこう書き換える。
  e(πi)+1=0

 博士はこの4人の生活を望んでいる。
 その数式の答えがゼロで記憶として失われてしまうものかもしれないが、+1で共に人生の時間を歩んでいきたいとメッセージする。

 数字で人を表し、数式で人間関係を表す。
 それが博士という今まで見たこともない人物を作り出し、見たこともない静謐な物語を作った。
 大きな事件が起きるわけではないが、数字・数式が盛り込まれることで淡々とした日常が違ったものに見えてきた。
 そして、ここで描かれた人たちは穏やかで皆やさしい。

★研究ポイント
 ドラマの作り方:日常をどう切り取るか。数式で切り取るという画期的な方法。

★名セリフ
 数字に託されたメッセージ(公式HPより)
1.完全数
 24の約数(1、2、3、4、6、12)を全部足すと24。
 デカルトは完全な人間が滅多にいないように完全な数もまた稀だと言っている。この数千年の間に見つかった完全数は30個にも満たないんだよ。
 ※完全な人間などいないことを知る。
  そうすれば他人に対してやさしくなれるし、自分に対して傲慢にならない。

2.素数
 素数の素は素直の素。
 何も加えない本来の自分という意味。つまり1と自分自身以外では割り切れない数字のこと。
 例えば、2、3、5、7、11、13、17、19……。
 この数字は夜空に輝く星のように無限に存在します。
 ※世の中のしがらみを脱ぎ捨てていった時に現れる自分。素直な自分。それが孤高の他に代わることができない自分。

3.友愛数
 284の約数の和は220。
 220の約数の和は284。
 神の計らいを受けた絆で結ばれた数字なんだ。美しいと思わないかい?君の誕生日と僕の手首に刻まれた文字が、これほど見事なチェーンで繋がり合っているなんて。

4.ルート
 どんな数字でも自分の中にかくまってやる寛大な記号。
 ※ルートはどんな人間でも受け入れるやさしい少年だ。

★追記
 小泉堯史監督は原作・小川洋子のさんの小説をこう表現している。(公式HPより)
「小川洋子さんの原作には私の好きな言葉が数多く織り込まれています。
 潔い、孤高、静けさ、調和、清明、魂、慈しむ、敬う、安心、直感、おかげ、素直さ、毅然、無事 等々。
 これら書き言葉のひとつひとつが、美しい響きを持っています。
 それぞれの言葉が、歴史の重み、深さを秘めているからでしょう。
 言葉は過去から、今に、直接働きかけ、記憶を呼び起こし、イマジネーションを豊にしてくれます」

 ※言葉の力。
  潔い、孤高、静けさ、調和、清明、魂、慈しむ、敬う、安心、直感、おかげ、素直さ、毅然、無事……。
  これらの言葉から浮かぶイマジネーションは確かに美しく心を凛とさせる。
  ちょうど、この作品を見た後のように。   
コメント (10)
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