平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

僕の歩く道 第1回

2006年10月11日 | その他ドラマ
 「僕の歩く道」第1話は31歳の自閉症の青年・大竹輝明(草剛)を描き上げる。
 冒頭、輝明は車が来ていないのに、赤信号であるため道を渡らない。
 家に帰るときっちり靴を揃えて、石鹸で手を洗う。
 これらの行動は、きっちりした性格の人ならやるかもしれない何気ない行動。
 この何気ない行動に意味が出て来る所に、この作品の面白さがある。
 輝明は「相手の言葉を言葉どおりに行動する」。
 抽象的ではなく具体的でなくてはならないが、その行動をするにあたって、輝明は何の疑いも抱かない。
 このことを知って視聴者が同じシーンを見ると、意味が出て来る。
 家に帰った輝明。
 靴をきちんと揃え、石鹸で手を洗う。
 作品中では語られないが、輝明はそうするように教えられたのだろうと言うことがわかる。
 母の里江(長山藍子)は、動物園での仕事のことを聞きたいが、輝明のことを知っているから、手を洗い終えるまで待っている。
 妹りな(本仮屋ユイカ)が挨拶をしなかったことにこだわった理由も見えてくる。
 恐らく輝明は、「人に会ったら挨拶をしなさい」と教えられたのだろう。
 何気ないシーンが後になって意味を持ってくる。
 手品の種明かしをされた様な鮮やかさ。

 そして作者はこの輝明の行動をさらに発展させる。
 教えられたこと以外の行動をしなければならない時、輝明はどう行動するか?
 動物園で輝明を指導することになった同僚は「最近どうですか?」と聞いてみる。これは事前に都古(香里奈)からそう質問されても、テルは答えられないということを聞いていたからだ。彼はそれを試してみた。
 輝明は答えられない。
 すごく怖いシーン。
 「最近どうですか?」という誰もがするような日常会話が、ドラマになってしまうところがこの作品だ。

 教えられたこと以外の行動をしなければならない時、輝明はどう行動するか?というモチーフは、こんなふうにも描かれる。
 天竺ネズミをカゴにしまう輝明。
 割れるピエロの風船。
 逃げる天竺ネズミ。
 輝明は混乱して、叫び声をあげる。
 穏やかな輝明から一転、輝明の激しい心の中を視聴者は知る。
 この静から動のドラマ作り。
 さらに1匹の天竺ネズミが見つからず動物園の職員が捜す中、輝明が帰ってしまうことで視聴者を裏切る。
 普通であれば、主人公が必死になって探して職員が主人公のことを認めるというのが王道。
 この裏切りが作品を個性的なものにした。
 穏やかで事件らしい事件は起きないが、様々なサスペンスとドラマがある。
 これがこの作品の魅力だ。
 
 そして都古との物語。
 輝明とは幼なじみの彼女は輝明をすべて理解している。
 輝明の行動の代弁者でもあり、彼女は決して輝明を悪く言ったり、叱ったりしない。
 輝明が母親と共に心を開いている存在とも言える。
 そんな彼女が、不倫相手の恋人とのいざこざから、輝明に感情をぶつけてしまう。
 混乱する輝明は、ツール・ド・フランスの歴代優勝者の名をつぶやき始める。
 作者は輝明を描くと共に都古のドラマを並行して描いた。

 ふたりはどうなるのか?
 家族は、動物園の同僚たちは輝明と関わってどう変わるのか?
 そして輝明は?
 輝明を単なる無垢な聖者として終わらせてほしくない。
 今の輝明は母親の胎内にいる子供。
 長山藍子の母親もそうだが、都古も輝明にとって母親。
 そんな母親の加護から離れて、少したくましくなった輝明の姿を最終回に見てみたい。

コメント (2)
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