Zooey's Diary

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「家へ帰ろう」

2019年09月05日 | 映画

ブエノスアイレスに暮らす88歳の仕立屋アブラハムは、自分を老人ホームにいれようとする子供たちから逃れ、故郷であるポーランドを目指して旅に出る。
そこには、第二次世界大戦でホロコーストから逃れた自分を救ってくれた親友に、自分が仕立てたスーツを渡すという目的があった。

アブラハムは相当に頑固な老人です。
小学生ほどの孫と真剣に小遣いの駆け引きをするというがめつさも持っている。
このがめつさは、その後も飛行機や宿の料金を値切るなど、映画のあちこちに出て来て
ユダヤ人特有のしたたかさを表すようで面白い。
おまけに大方ニコリともしないで、非常に横柄な態度です。



飛行機の隣席の若者にしつこく話しかけたり、娘をくだらない理由で勘当したり、
列車でパリからワルシャワに行くのにドイツの地は絶対に踏みたくないと無理難題を言ったり、
相当に扱いにくい頑固爺さんでもあります。
ところが旅の途中で持ち金を盗まれて窮地に陥り、様々な人に助けてもらい、
頑なだった心が次第にほぐされていく。
この老人には独特の洒落っ気があることも、段々に分かって来ます。



ところどころに幼い頃の幸せな家族の集まり、愛らしい妹のシーンが挟まれる。
ホロコーストのことは決して口にしなかったアブラハムが、父親も伯父も眼の前で虐殺されたこと、
幼い妹も連行されたことなどを旅の途中でポツポツと語り出す。
眉間には深い皺、手は震え、少し移動するにも息を切らし、強制収容所の後遺症で
不自由な片足を引きずりながら、遥かなる故郷を目指す。
70年間音信不通の親友に会えるのか、そもそも彼は生きているのか?
頑固な偏屈爺さんを、次第に応援したいと我々に思わせる手腕は見事なものです。



重いテーマを、偏屈爺さんのキャラクターにユーモアを含ませ、
三人の女性たちとの出会いなどコミカルな展開も加えて、軽妙に仕上げています。
音のないラストに息を呑み、邦題の意味にしみじみ納得。
監督・脚本のパブロ・ソラルスは1969年生まれの戦後世代のユダヤ系アルゼンチン人。
祖父の体験を基にこの作品を作ったといいます。
スペイン・アルゼンチン合作、英題は「THE LAST SUIT」。



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