この日はBar Issheeに坂田明さんを観に行くつもりでいたら、友人からメールでTHE BAWDIESの「ROCK ME BABY」TOUR 2012のチケットが余ってるので観ませんか、との誘い。以前から観たいと思っていたバンドだしチケット代は要らないというので、横浜まで出掛けることにした。
THE BAWDIESは2007年4月新宿Red Clothでsix、GO-DEVILSの対バンで観ている。彼らがインディーズ時代所属していたSEEZ RECORDS(sixも所属)のイベントで、2組のガールズ・バンドが他の男性バンドを蹴散らす、という趣旨のものだった。私は勿論sixとGO-DEVILS目当だったのでTHE BAWDIESを含む男性バンドの印象は殆どないのだが、当時ガレージロック系イベントによく通っていた記憶を辿ると、揃いのコスチュームで60'sブリティッシュ・ビート風のR&Rを演奏していたと思う。
バイオによるとSEEZ RECORDSで2枚アルバムを発表した後2009年にビクターからメジャー・デビュー、メジャーでは現在までに3枚アルバムをリリースしている。彼らが大きくクローズアップされたのは、2009年に始まった「本屋大賞の音楽版」と称される「CDショップ大賞」で第1回の
相対性理論に続いて2010年第2回の大賞に選出されたことである。マスコミ主導のレコード大賞等とは異なり、リスナーに最も近いCDショップの店員の投票で選ばれるこの賞は、不況に喘ぐ音楽業界の改革の象徴である。また2011年に伝説のUSガレージパンク・バンド、ザ・ソニックスの招聘に携わり共演ライヴを企画、一旦は震災で中止になったが、今年3月に実現させたことも彼らのロケンローへの熱意を証明している。
全編歌詞が英語で60'sソウルやR&B、ガレージパンクの影響を真っすぐ過ぎる程ストレートに打ち出したサウンドがかなり玄人っぽいバンドにも関わらず、武道館をSold Outにする人気の秘密は何処にあるのかとても興味があった。
横浜BLITZに行くのは10数年ぶり。川崎Club Cittaと並んで神奈川では人気のライヴホールである。冷たい雨の中会場へ着くと、Tシャツに首にタオルを巻いた10~20代の若者が列をなして並んでいる。こんな多くの人数が入れるのか?と思いググってみるとキャパは1700人、赤坂BLITZや恵比寿リキッドルームよりも大きく渋谷AXと同じ規模だった。私達の席は2階席の最後列。1Fはスタンディングで元気一杯の若者でギッシリだったので、ロートルにとって落ち着いて観られる2階席はプレミア・シートである。同行者の話ではTHE BAWDIESのお客さんは若い子が多いので開演時間が早く時間通りに終わるそうだ。この日は10分押しの6:10PM開演、終演はピッタリ8:00PMだった。時計で確認したから間違いない。見ての通りイケメン4人組だから7:3で女性ファンが多い。
ステージセットは何本かの照明スタンドの前にアンプとドラムが置いてあるだけのシンプルなもの。ドラムが高い台に乗っていてビートルズの武道館公演のセットを思わせる。4人が揃いのスーツ姿で登場すると大歓声が沸き上がる。1曲目からギター中心のガレージロックが鳴り響く。1Fの観客は前から後ろまで全員が腕を振り上げて飛び跳ねている。ルースターズ~ミシェルガン・エレファントの流れを引き継ぐガレージロックをイメージしていたが、歌詞が英語であることとモータウン直系のソウルフルで人懐っこいサウンドは、より洋楽風に垢抜けていていわゆるJ-ROCKの匂いがしない。2本のギターの絡みは初期ストーンズ風。ビートルズやストーンズ、ザ・フーやゼムなどのブリティッシュ・ビート、レイ・チャールズやオーティス・レディングなどのソウル/R&B、スタンデルズやザ・ソニックスのようなアメリカン・ガレージパンク、ドクター・フィールグッドや初期エルヴィス・コステロのようなパブロック....それらの要素がライヴ慣れした堂々とした演奏の中頭をよぎる。20代後半にして"おっさんロック"の域に達しているなと思ったが、ファンの熱気は凄まじく2階席まで熱が伝わり汗が流れる。
とても達者な曲間のMCはドラムのマーシー君をいじるネタが多く、客席は大爆笑だったが、その口調を聞いて気がついた。「新曲やってもよろしいですか?」という"ですます調"の丁寧語のMCは、正にライヴハウスのガレージパンク/60'sロック・イベントの典型なのである。特にこのシーンの第一人者であるGoogle-A(ゴーグル・エース)のリーダー、カマチガク氏のMCがすべて"ですます調"でそれがファンの熱狂的な反応を引き起こす。その光景をその何十倍も大きな会場で目にしているのだ。THE BAWDIESがかつて属していた小規模なガレージロック・サークルの流儀をそのまま継承していることが分かりとても嬉しくなった。とにかくロケンローが好きで好きで溜まらない連中の集まりである。武道館クラスに成長してもそのままのスタイルで演奏する4人は素晴らしい青年たちだ。そこには計算や恰好つけは一切ない。「好き」で「楽しい」からこそロケンローをやっている、という気持ちがストレートに伝わって来る。
2曲の新曲とレイ・チャールズのカヴァーを含みパワフルなロッケンロールのオンパレード。終盤にヴォーカル/ベースのロイ君が口にした「もっとはみ出しましょうよ。はみ出した部分をロックンロールと呼ぶんじゃないですか!」という言葉に感動した。これほど的を得た言葉を聞くのは久々だし、若いファンが全員大歓声で応えるのを見るのも壮観だった。終盤は波打つ観客の中にいくつか渦を巻く小規模なモッシュが起る。決して無鉄砲な馬鹿騒ぎじゃなく心からロッケンロールを楽しむ若者たちの姿が演奏以上に印象的だった。とにかく素晴らしいロケンロー・パーティだった。
ボウディーズ
忘れていない
初期衝動
年配のロック・ファンの若者ロケンローへの案内役としても最適のバンドである。