灰野敬二 × SOON KIM
18:00開場 19:00開演
前売4,000円/ 当日4,500円
灰野敬二(g, etc.)
SOON KIM(as)
東急目黒線/大井町線の大岡山駅に昨年オープンしたGoodstock Tokyoは「大人のためのミュージックスペース」としてフォークやジャズ系のベテラン・ミュージシャンが出演している。新宿コマ劇場の地下にあった劇場シアターアップルの払い下げの大きなスピーカーが設置され音の良さにこだわったライヴハウスである。今年3月18日下北沢Last Janeで初共演したアルトサックス奏者SOON KIMとの2度目の共演ライヴが開催された。
⇒灰野敬二+SOON KIM@下北沢Lady Jane 2017.3.18 (sat)
⇒Goodstock Tokyo Website
前回はギターとパーカッションだけのストイックな演奏だった灰野は、今回は発信器やフルートや歌も披露した。お客さんを楽しませる為にはまずは演奏者自身が楽しまなければ、という意図であろう。今回SOON KIMがサングラスをかけて演奏したのは、予想外の驚きや歓びを目の表情からオーディエンスに悟られることなく、あくまで純粋な音で感じてほしいという気持ちの表れだったのかもしれない。
その結果前回よりもある意味でユルい、つまり自由度が高い共演が展開された。発信器のドローンサウンドの重なり合いが微妙にズレていくことで聴き手の感受性がズレていく。サックスのフリーなフレーズに重ねて「Love Me Tender」が歌われるが、コーラス部分の歌詞が出るまで気がつかない。逆に考えれば「ラヴ・ミー・テンダー」という言葉(歌詞)を聴いて、突然炎のように知覚が啓かれ、曲名が脳裏に浮かびあがる思いがけない驚きが、電気ショック療法のように聴き手の常識中枢を無軌道修正するのである。KIMのサックスは破綻することなく無尽蔵に自由の水が流れだす川のせせらぎ。灰野のギターは変則チューニングで、指の形と奏でる音のギャップが、視覚と聴覚の関係性をリセットする。気がついたらフローに身を任せるうちに現実と夢想の狭間に揺れる思考の風船になって弄ばれていた。
この日2セット100分余りの聴取体験は、不失者やソロ活動とは一線を画す灰野流のセッションワークに於ける気概の在り方のひとつの例を提示していたように思える。筆者の言葉で言い表せば、感性や既成概念を異化するために用意された自由度の高さを「揺蕩(たゆた)う緩(ユル)さ」として提示する方法論。「ユルさ」を「揺るさ」と書き換えればわかり易い。聴き手の心や思考や五感を揺さぶる共振(vibrations)を生み出すことが一期一会のセッションの歓びだと言えよう。勿論それは「なれ合い」による外見上の相互作用の意味ではない。「親しき中にも礼儀有り」というと余りにお行儀がよすぎるかもしれないが、使い古された慣用句の意識/無意識の底から溢れ出す真実を、今一度見直す必要がある。SOON KIMの正統派のプレイが筆者に限りない驚きと閃きを与えてくれる理由は、Back To The Basicだけではないのである。
良き感性
良き慣性と
良き歓声
Solo in Seoul. Soon Kim