盤魔殿やJazzTokyoで2019年のBest Albumを選出したが、実はそういう作業は苦手である。気紛れで好みが変わりやすいし、少し時間が立つと以前何を聴いていたか忘れてしまうからだ。ブログやDJプレイリストは備忘録代わりになりそうだが、必ずしも好きな作品だけを取り上げている訳ではない。今回なんとかマイベストテンを作ってみたが、あくまで2020年1月3日の気分に基づいたリストだと考えていただきたい。参考として番号を振ったが、あくまで順不同である。
1. 春日井直樹 / Scum Treatment Vol.2
2018年突然怒濤のリリースラッシュを開始した名古屋の地下音楽家、春日井直樹は2019年LP3作,CDR1作,カセット6作,ビデオ1作を発売、さらに年末に『walk』カセット31本同時リリース。200枚すべて異なるコラージュジャケットや、一本ずつ手作りでデコレーションしたカセット作品など、パッケージヘの執念の深さは、サブスク/ストリーミング時代に独りで一向一揆を起こすようである。⇒JazzTokyoレビュー
Naoki Kasugai / 「 film:music」「SCUM TREATMENT VOL.2」(ダイジェスト)
2. NECRONOMIDOL / Scions Of The Blasted Heath
移り変わりの激しいアイドルシーンで5年の長きに亘って活動するネクロ魔の新体制初作品。魔ヲタによる研究本『魔都』にはクトゥルフ、ブラックメタル、インダストリアルなどのキーワードが満載。制作側のこだわりが徹底しているからメンバーもヲタクも安心して好きな世界へ行ける。
NECRONOMIDOL - CHILDREN OF THE NIGHT Music Video
3. 割礼 / のれないR&R
36年にわたり日本の地下ロックシーンで活動するサイケデリック・バンド割礼の9年ぶりのスタジオ録音盤。スローモーションのサウンドに凝縮された情念の嵐は2020年の幕開けに相応しい。割礼が存在することで性急すぎる地球の自転のスピードが少しだけゆっくりまったりするに違いない。⇒ライヴレポート
割礼 / アキレス (Live Session)
4. 沖縄電子少女彩 / 黒の天使
ポップとアヴァンギャルドを境目無しに飛び回る沖縄電子少女彩をはじめとする、現代産まれのジャンル無用の表現者に対して如何に心を開けるかどうかで、これからの音楽の楽しみ方が大きく変わることは間違いない。
沖縄電子少女彩『憎悪の階層』MV / Okinawa Electric Girl Saya『 Hatred hierarchy』
5. Marshall Allen, Danny Ray Thompson, Jamie Saft, Trevor Dunn, Balazs Pandi, Roswell Rudd / Ceremonial Healing
95歳を通過した変態ジャズの長老マーシャル・アレンの宇宙規模の自由な音楽が、たった30センチのレコード盤をターンテーブルに乗せるだけのささやかな儀式を通じて我々の現実世界と繋がる。これこそ真の癒しであり祝福である。⇒JazzTokyoレビュー
Sun Ra Arkestra (USA) Marshall Allen 95th Anniversary Tour live @ Porgy & Bess So 28. April 2019
6. THE STAR CLUB / SIXTY(DVD)
40年以上パンクし続ける不倒のパンクロッカー、スタークラブのパワーにノックアウトされ、オレの中の14歳が疼いて居ても立ってもいられないときは、DVD3枚に収められたHikage60歳記念ツアーに合わせて拳をあげるしかない。
The star club/Rock Power
THE STAR CLUB - The Early Years 1980-1982 [Box Set]
7. V.A. / Vanity Box, Vanity Tapes, Musik
大阪で阿木譲が作り上げた自主レーベルの象徴ヴァニティレコード。録音・制作自体は40年前だが、2019年の現在初めて明らかにされるニューシング(nu thing)が提示された。表現行為の記録の再構築により、煤のように堆積した記憶を払い除き、本質的な音楽そのものを新しい耳で体験すること、それが異形の偉業への正しい向き合い方である。⇒JazzTokyoレビュー
Salaried Man Club - The thought of Y (1981)
8. Fucm Hawj / Steeple
Fucm Hawj(フクム・ホージ)とは前衛サックス奏者クリス・ピッツィオコスのコンポジションを演奏する為の弦楽カルテット。異形のシリアス・ミュージックは、ジャズ的な即興音楽に新鮮みが感じられず、2019年はもっぱらクラシック売り場の現代音楽コーナーを掘っていた筆者の心情とシンクロする作品である。とはいえクールな唯物感はピッツィオコスのバンドCP Unitのハーモロディクスファンクジャズと同質である。
CP Unit - at Secret Project Robot - Feb 18 2019
9. ザ・ハイマーツ / あなたが欲しいの
ジャパニーズ・ガールズ・ガレージロックの新星ザ・ハイマーツの1st7インチ。某レコ屋でジャケット買い。A面のキュートなオリジナルとともに、B面のネオGSのファントムギフトと、US60'sガレージパンクのジェスチャーズのカヴァーにノックアウト。10年ぶりにGSガールの誘惑にハマりそうな予感。
ザ・ハイマーツ - あなたが欲しいの(The Highmarts - I Want You Bad)
10. Kevin Morby / Oh My God
USオルタナシンガーソングライター影の首領ケヴィン・モービーの5thアルバム。初期のサイケフォークが徐々にモダンポップ化しているが、意識を雲の上に遊ばせたまま地上に舞い降りた天使を擬人化したような風貌で、現代ロックシーンを浄化するデトックスの機能を発揮するに違いない。⇒ディスクレビュー
Kevin Morby - No Halo
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次点. ポール・モーリア / 華麗なるラブ・サウンド・ベスト156
今は亡きムード音楽の帝王ポール・モーリアの華麗なアレンジは、過剰な刺激に麻痺して鈍化している現代人の感性を癒すだけではなく、人と人を音楽で結ぶ友愛幻想を受け入れることで他の音楽とは異なる心の優越感を与えてくれる。シティポップ、環境音楽の次は、ラブ・サウンドの再評価が世界的に盛り上がるだろうと予言する。
Paul Mauriat - Live in Tokyo 1983 (full)