A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【地下音楽への招待】LLEレーベル特集 第2回:発展形オムニバス『LUBB-DUPP - 精神工学様変容 II』『A SLICE OF LIFE』 +Trembling Strainライヴレポート

2020年01月13日 02時56分21秒 | 素晴らしき変態音楽


2020年1月12日(日) 御茶の水明治大学アカデミーコモン
Trembling Strain 2020
メンバー:pneuma as 高沢悟(perc)、山崎慎一郎(g,vo)、照内央晴(pf)、鈴木祐子(fl,vo)、方波見智子(perc,vo)、細田茂美(g)

LLEレーベル代表者のひとりであるpneuma(プネウマ)こと高沢悟が90年代に率いていた実験音楽ユニット「Trenbling Strain」が約20年ぶりに復活し、精神保健関連イベント『きらりの集いTOKYO2020』でライヴを行った。メンバーはLLE時代から活動する山崎慎一郎(KAREIDOSCOPE, ラクリモーザ他)、細田茂美(國盛実吉ユニット、犬狼都市、N.H.K.他)を中心に、即興シーンの現役ミュージシャンたち。アコースティック編成のアンサンブルで、全員パーカッションや手拍子でのポリリズム、音数の少なさを活かした囁きのサイレントプレイ、セリフの掛け合いによる演劇的パート、エンディングは美しいメロディのフォークバラード、と約40分に亘る壮大なストーリー性のある即興演奏を披露した。愛知県の病院長を務め多忙な高沢は20年ぶりの人前での演奏の為にみっちりとスタジオ・リハーサルを重ねたというだけあり、素晴らしいステージだった。この1回で終わることなく、ぜひこれからも活動を続けてもらいたいと願う。


高沢悟の音楽活動再開と共に、LLEレーベルの知られざる活動記録と作品のアーカイヴ化が進むことを祈りたい。80年代インディーズの中でパンク/二ューウェイヴ/地下音楽だけに留まらない個性的な音楽を世に送り出したLLEレーベルの業績はもっと評価されて然るべきである。このブログ記事がその一助になれば幸いである。
前回に引き続き、LLEレーベルを象徴するオムニバスアルバムを紹介しよう。

●LUBB-DUPP 精神工学様変容 Psychotronic Metamorphosis II PM-1005 / 1982

収録アーティスト:犬狼都市(キュノポリス)/Glass Philosophy/腐乱死体/D.R.Y Project /サラマンドラ館/Location/フリーメイソンズ・ブラック・ブレイン/Anima

企画ライヴのタイトルを冠したLLEレーベル第1弾『精神工学様変容』の続編。ジャンルを限定せず「精神を変容させる」アーティストが集合したラインナップは、オムニバス第2弾『無限夢』ほどのポップさは無く、むしろ地下音楽のカオスを象徴するサウンドが色濃い。パンク/ニューウェイヴばかりのインディーズシーンにLLEが迎合しない(出来ない)ことを宣言した作品と言えなくはないだろうか。

A1 犬狼都市(キュノポリス)/ 天地核
元New Jazz Syndicateで当時荻窪グッドマン(現高円寺グッドマン)を経営するソプラノサックス奏者鎌田雄一率いるフリージャズユニット。現在も高円寺グッドマンを中心に活動している。

A2 Glass Philosophy / ギャンブル
初期Ultravoxを思わせるエレポップデュオ。モノトーンの色彩が地下に通じる。

A3 腐乱死体 / 腐乱死体
フリーインプロヴィゼーションの5人組。吉祥寺マイナーの愛欲人民十時劇場に出演していそうなケイオティックな地下音楽。

A4 D.R.Y Project / レクイエム・フォア…
現在エレクトロニクス系音楽ライター兼中野のレコード/CDショップ Shop Mecano店長の中野泰博によるテクノポップ・ソロユニット。

B1 サラマンドラ館 / たこの吸い出し
B2 サラマンドラ館 / 栄養クリーム
シンガーソングライターとうじ魔とうじのユニット。不思議な歌詞のアシッドフォーク。

B3 Location / t.v.l
二人組エレクトロユニット。吐き捨てるようなヴォーカル・スタイルが東京ロッカーズっぽくて個人的に気に入っている。

B4 フリーメイソンズ・ブラック・ブレイン / なぜならば…
日本のNICOの異名を取る女性シンガー多加美を擁するアコースティックバンド。カトゥラ・トゥラーナ/ラクリモーザのChihiro S.(斎藤千尋)が参加、ペイガンフォークに通じるエスニックな世界を展開。

B5 Anima / GREY CITY
中野泰博を含む3人組シンセユニット。捩じれたリズムとダークなヴォーカルはキャバレー・ヴォルテールやTG等初期インダストリアル系。

フリーメイソンズ・ブラックブレイン - なぜならば…



●A SLICE OF LIFE LLE-1009 / 1984

収録アーティスト:SOFT WEED FACTOR/ うばざくら/背徳者/Veetdharm Morgan Fisher

LLEレーベルの9枚目のLP、通算14作目の4バンドによるオムニバス。4組とも長めに収録されているから、オムニバス/コンピレーションと呼ぶより4Way Splitアルバムと呼んだ方が相応しいかもしれない。

ここに収録されている音楽は、それぞれ個性的で特徴的だけど、自分たちの音を持った素晴らしいミュージシャン達の創り出す虚りのないメッセージに満ちている。このレコードを聴いて何かを感じてくれれば、これで私たちとあなたは同じ A SLICE OF LIFEを共有した訳だ。このアルバムに参加したミュージシャン達が出会ったように、私たちとあなたの出会いがここにある。(高沢悟のライナーノーツより)

1作目『精神工学様変容』の帯裏コメントに記した現在の音楽シーンへの挑戦(前回のブログ記事参照)が、3年経って形になりつつあるという実感があったのだろうか。『A SLICE OF LIFE(人生のひとこま)』というタイトルはアルバムに参加したモーガン・フィッシャーが名付けたという。70年代ブリティッシュ・ロック・シーンで活躍したフィッシャーが日本に移住してLLEレーベルと出会った喜びをこの言葉に籠めたのだろう。そうした出会いをレコードを通じて多くの人と創り出したいという高沢の想いが綴ってある。しかしながらLLEレーベルとしてはこのアルバムが最後のオムニバス作品となった。
 
A1 SOFT WEED FACTOR / ちかちかと
プログレッシヴロック研究家・坂本理が率いる8人組。サックス、バスクラ、チェロを含む複雑な変拍子の楽曲と高度なテクニックは、レコメン系チェンバーロックに引けを取らない。音源は他にBelle AntiqueのコンピCD『Lost Years In Labuyrinth』に2曲収録されている。

A2 うばざくら / 月と舞台
A3 うばざくら / 眼球に接吻を
A4 うばざくら / 鞠をつきましょう
大阪を拠点に活動する女性ヴォーカル+ギター+ベースの3人組。美しいメロディのシンプルなサウンドだが、空気中に蕩けていくようなリバーヴが狂った夢の中を漂うような浮遊感を醸し出すジャパニーズ・トラッド・アシッドフォーク。

B1 背徳者 / Cold Living
B2 背徳者 / Decision
白塗りゴスロックトリオ。ダークでヘヴィなサウンドは、同時代のポジティヴパンクやゴシックパンクに比べて深い情念と音の奥行きを感じる。バンド名通り背徳的な罪の十字架を背負っているかのようである。3年前に活動再開し、年々活動ペースが上がって来ている。

B3 Veetdharm Morgan Fisher / The Emerald Isle
B4 Veetdharm Morgan Fisher / In A Gentle Way
B5 Veetdharm Morgan Fisher / Going Nowhere
モット・ザ・フープルのオリジナル・メンバーで、クイーン等人気バンドのサポートでも活躍していたキーボード奏者のモーガン・フィッシャーが、80年代実験的な音楽を追究しはじめ、辿り着いたのがプライヴェートなアンビエントサウンドだった。そうした方向性の最初期にこのオムニバスに参加した事実は、まさに「人生のひとこま」をLLEと分け合ったと言えるだろう。85年にLLEからVeetdharm名義の単独アルバム『Water Music』をリリースした。

背徳者 - Decision


こうしてLLEレーベルのオムニバス・アルバムを見てくると、いわゆるレーベルのショーケース的サンプラーや単なる寄せ集めではなく、緩やかな共同体としてのLLEの共通意識の元に結びついた「人生のひとこま」の集合体であることがわかるだろう。オムニバス以外の単独作品にも感じられるこうした意識を、言葉で説明することは不可能に違いない。やはり実際の音楽/パッケージ/ライヴに触れることでしか理解できないものもある。Trembling Strainの復活ライヴを観れたことで、触れなければ理解しえないLLEの意識に少しだけ近づくことが出来たことは本当に幸福だと思う。高沢の言葉のように、これからLLEとあなたの出会いが始まることを願って止まない。

人生の
薄切りスライス
召し上がれ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする