A Challenge To Fate

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【私の地下ジャズ愛好癖】ロフトから世界の前衛へ旅するギタリスト、マイケル・グレゴリー・ジャクソン~『クラリティ●▲■』『カーモニック・スイート』『エンドージャニィ&エクソガミィ』

2021年03月09日 01時38分10秒 | 素晴らしき変態音楽


ジャズを自覚的に聴き始めた頃に、ロフトジャズに影響を受け、ロフトジャズこそ自分が求めるジャズだと思っていた筆者だが、マイケル・グレゴリー・ジャクソンというギタリストのことを意識し始めたのはつい最近である。筆者にとってジャズ/即興音楽を聴く基準は主にサックス奏者であり、次にピアニスト、その次にドラマーであった。ソニー・シャーロックとデレク・ベイリーとジェイムズ・ブラッド・ウルマーを例外として、ギタリストが目当てジャズのレコードを買ったりライヴに行ったりすることはほとんどない。筆者にとってギタリストは、ロックの花形ではあってもジャズに於いては刺身のつまに過ぎないのである。だから5年くらい前に中古レコード屋でマイケル・グレゴリー・ジャクソンの『Karmonic Suite』というレコードを見つけた時、もし裏ジャケのオリヴァー・レイクの名前に気が付かなかったら、このギタリストのソロ作を聴くことはなかったかもしれない。つまり、このレコードを購入したのはやはりサックス奏者のオリヴァー・レイク目当てだったのである。

その後改めて手元のオリヴァー・レイクのレコードを見直してみて、『Holding Together』(76)、『Life Dance Of Is』(78)、『Shine!』(79)の三枚にジャクソンが参加していることが分かった。またロフトジャズのコンピレーションLPシリーズ『Wildflowers1~4 (The New York Loft Jazz Sessions)』(77)にはMichael Jackson名義で、3つのセッション(自己名義、オリヴァー・レイク、アンソニー・ブラクストン)に参加している。ジャクソンはロフト・ジャズ・シーンに於ける数少ないギタリストの一人として複数のユニットで活動していたのである。もっともロフト・ジャズの特徴のひとつは、固定メンバーのグループではなく、自由な形のジャム・セッションを通して真のアートを作り出そうとしたところにある。誰がリーダーでもない集団即興音楽。それこそ本来ジャズがクラシックやポップスやロックと異なる重要なポイントだったが、ショー・ビジネスやレコード産業のスター・システムの中で失われつつあった。コマーシャリズムに迎合せずに自分たちの求める音楽表現を追求することがロフト・ジャズの本質なのである。

 Photos by David Greenberger

1953年8月28日コネチカット州ニューヘイブン生まれのジャクソンは、20代でニューヨーク・ジャズ・シーンに参入し、サックス奏者オリヴァー・レイクのグループで腕を磨いた。1977年にオリヴァー・レイクに加えて、レオ・スミス、デヴィッド・マレイというベテラン勢を迎えて1stソロ・アルバム『Clarity』をリリース。その後も前衛ジャズ一辺倒ではないフレキシブルな音楽性を持つソロ・アルバムをリリース。80年代によりポップなソウル、ファンク路線に転向したのに伴ない、“キング・オブ・ポップ”マイケル・ジャクソンとの混同を避けるためにジャクソン姓を省いてマイケル・グレゴリー名義で活動し、ナイル・ロジャーズのプロデュースでアルバム『Situation X』をリリース、スティーリー・ダンのウォルター・ベッカーと共演したりしている。2009年のマイケル・ジャクソンの死後に再びジャクソン姓を名乗り、ソロ活動の他にデンマークのミュージシャンとMichael Gregory Jackson Clarity Quartetを結成し、原点に戻ったようにアヴァンギャルドからポップに至る多彩な音楽性を展開している。2020年初頭のパンデミック以降Bandcampで自粛中にホームレコーディングした新録から過去のアーカイヴまで、自らの音楽活動歴を俯瞰するレパートリーを月1作のペースで新作をリリースしている。最新作は1973年のジュリアス・ヘンフィル(sax)、アブドゥル・ワドゥド(cello)、フェローン・アクラフ(ds)とのカルテットの未発表ライヴ・アルバム『Frequency Equilibrium Koan』。

"FREQUENCY EQUILIBRIUM KOAN" (Album Snippets)

JazzTokyo#2061 『Michael Gregory Jackson / Frequency Equilibrium Koan』『マイケル・グレゴリー・ジャクソン / 周波数平衡公案』

ビル・フリゼール、パット・メセニー、マーク・リボー、メアリー・ハルヴァーソンなど、ジャクソンのギターに影響を受けたギタリストも多い。

●Michael Gregory Jackson, Oliver Lake, Leo Smith, David Murray ‎/ Clarity●▲■(Bija Records ‎– MJ-1000 / 1977)


ニュージャージーのBijaレコード からリリースされた1stソロ・アルバム。1976年8月ニューヨーク録音(A4のみロサンゼルスでのライヴ録音)。この時点でジャクソンの参加音源はオリヴァー・レイクの76年作『ホールディング・トゥゲザー』と先述のコンピ.・シリーズ『ワイルドフラワーズ』の3つのトラックのみだった。マイナー・レーベルとはいえ、若干23歳の新人ジャズ・ギタリストがオリヴァー・レイク(sax)、デヴィッド・マレイ(sax)、ワダダ・レオ・スミス(tp)というロフト・シーンを代表する先輩ミュージシャンの協力を得て、ソロ・アルバムを発売できたことは、D.I.Yを信条とするロフト・ジャズの精神に則ったものといえるだろう。1曲目の代表曲「Clarity ●▲■」では繊細なアレンジで室内楽風のアンサンブルを聴かせる上に爽やかなヴォーカルを披露。敬愛するオリヴァー・レイクとの美しくも複雑なデュオ・ナンバーはその名もずばり「Oliver Lake」。LAでのライヴ・ナンバー「Prelueoionti」は流麗なアコースティック・ギター・ソロ。ギターだけでなくバンブー・フルートやマリンバ、ティンパニ等パーカッションまで手掛けるマルチ・ミュージシャンぶりを発揮。どす黒いブラック・パワーの坩堝のようなロフト・ジャズとは一味違う洗練された感性を詳らかにした異色作である。ジャケットの猫の目が弱ションの瞳にそっくり。

Michael Gregory Jackson - Oliver Lake



●Michael Gregory Jackson ‎/ Karmonic Suite (Improvising Artists Inc. ‎– IAI 37.38.57 /1978)


翌年1978年にポール・ブレイのIAI(Improvising Artists Inc.)レコードからリリースされた2ndソロ。アルバムの半分にオリヴァー・レイクが参加している以外はすべてジャクソン一人の演奏である。タイトルの「カーモニック(Karmonic)」とはジャクソンの造語と思われ、Karmaharmonism=カルマ(業、因縁)調和主義という思想のことである。インド思想に基づいた人類愛・博愛主義ようなのもので、インサートにはいくつかの詩作が掲載されている。面白いのはドラマーのフェローン・アクラフが書いた詩も載っていることである。共にオリヴァー・レイクのグループのメンバーであり、ほぼ同い年のジャクソンとアクラフは同じ考えを共有するソウルメイトのような関係だったことが想像できる。アクラフは本作には参加していないが、ジャクソンの3rd『Gifts』、4th『Heart & Center』(共に79年)では全編ドラムでサポートしている。本作でのジャクソンはますますマルチ・プレイに磨きがかかり、マリンバやバンブー・フルートのソロ演奏や、オリヴァー・レイクとのデュオでは、曲ごとにポエトリー・リーディング、アコースティック・ギター、エレキ・ギターのヴォリューム・ペダル奏法、ドラム&パーカッション、と異なる楽器でコラボする多様性を発揮する。また、リーダー・グループ以外では、ジュリアス・ヘンフィル(sax)やジョセフ・ボウイ(tb)とのデュオとワールド・サクソフォン・カルテットといったホーン奏者との共演しかない70,80年代のオリヴァー・レイクが残した唯一ホーン以外の奏者とのデュオで、思う存分自分のプレイを繰り広げる作品として、オリヴァー・レイク・ファンにとっても聴き逃せないアルバムである。

When We Got There



●Michael Gregory Jackson - Kikanju Baku - Joseph Daley / Endogeny & Exogamy (Ethnicity Against The Error / 2015)


長い時を過ぎて筆者が久々にマイケル・グレゴリー・ジャクソンの名前を聞いたのが、ロンドン・アンダーグラウンド・シーンの爆裂ドラマー、キカンジュ・バクとの共演アルバムだった。2年前にロスコー・ミッチェルに直接売り込みをかけてコラボレーションが実現し世に知られることになったキカンジュが、次にアタックしたのがマイケル・グレゴリー・ジャクソンだったのも面白い。ミッチェルの時と同じように、キカンジュからジャクソン宛にセッションしようと直接メールで連絡し、ロサンゼルスでサム・リヴァーズやタージ・マハルと共演してきたチューバ奏者ジョセフ・ダリーを加えたトリオでレコーディングされた。三人の会話のような完全即興が、行方知らずの旅路のようにあらゆる方向に進むにつれて、三人それぞれの自由空間がアメーバのように伸縮し、接近と乖離が繰り返されて飽きることがない。ジャクソンはエレキギター一本で様々な奏法を駆使して一回限りのレコーディング・セッションを全力で楽んでいる様が感じられる。卓越したギター・テクニックと尖ったセンス、チューバのユーモラスなフレージング、ドラムの鋭いブラストビート。スタイルとタイプの異なる三者が生み出す音楽の内性と外性(Endogeny & Exogamy)の異種交配がジャズともフリー・ミュージックともハードコアとも異なる第四のクリエイティヴ・ミュージックを生み出した。

69歳のマイケル・グレゴリー・ジャクソンの創造性の旅はまだまだ続くに違いない。

"Clarity 3" Michael Gregory Jackson Clarity Quartet Live in Denmark! (Previously Unreleased Track).


ロフトから
世界の果ての
前衛へ
旅するギターの
やさしさよ

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